夢 短め

□狐の婿入り2
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曜日関係なく、私の朝は早い方だ。
両親が共働きで、なおかつ不在がちなので、自炊必須なのだ。
掃除、洗濯、買い物、町内会の回覧板を回したり、家の保全補修まで。
大概の事は、自分だけで解決してるのだ。
『あー。これ、食べられるかな』
買った食材はその日に使わないと、つい忘れて賞味期限切れにしちゃうよね。
『加熱したら、大丈夫かな』
『おい、光夏』
『ん?』
足元に、子犬。
じゃなくて、子狐。
『おはよう、花宮』
『洗え』
人語を喋る特殊な子狐には、尻尾が八尾もある。
そう、花宮は妖孤。
私は妖孤の世話もしてるのだ。
『お狐様は、挨拶もできないの?』
『ふはっ。俺は5時から起きてんだ。お前はちっとも早くねぇっての』
『じゃあ、おそようか』
『どうでもいいから、洗えっ』
妖孤は、妖怪の中でも特に綺麗好きだという。
温泉通いをし、水遊びも大好きで、シャワーやプールも大喜び。
『朝からシャワーって。どこの女子?』
『洗えよ。今日は学校ねぇだろ』
妖怪も、曜日や学校に詳しい。
人間の現代社会に、すんなり溶け込んでるのだ。
『昨日、上位者会合で煙草吸われて、臭いが着いちまったんだよ』
ご立腹な妖孤花宮は、煙草という代物が大嫌い。
『煙草の臭いで寝るとか、拷問だろ。爺ぃ達、あの場で噛み殺してやりゃよかったぜ』
『朝から物騒な発言やめなよ。今、洗ってあげる』
『ミントやラベンダーで洗うなよ』
芳香剤臭いのは好きじゃねぇと、悪態をつく花宮を抱き上げて浴室に向かう。
『温度大丈夫?』
『あぁ』
全身にお湯を流して、適度に湿らせる。
『さてと』
狐だけど、ペット用のケア剤は揃えてない。
人間用のボディーソープやヘアケア剤でトラブルがないから、毎回適当に選んで小さな体を泡立ててる。
『痒いとこは?』
『ない……お湯の勢い弱ぇぞ』
『はいはい』
濯ぎ洗いは、強めがお好き。
水圧マッサージも楽しんでるらしい。
『はい、終了』
身震いする前にバスタオルで包む。
抱えて脱衣室に出ると、希望を叶えたのに膨れっ面をしてる。
『あれ、耳にお湯入った?ごめん』
『違う。明日はザクロで洗え』
『何だ。マンゴー嫌だったなら、使う前に言えばいいのに』
『明日はザクロだからな』
『夜使ってあげるよ』
『夜もシャワー浴びていいのか?』
好物を見つけたように、目を輝かせる。
シャンプー大好きだよね。
『マンゴーの香りで寝るのも嫌でしょ』
『当然だ。俺は穏やかに香る、上品な薫りが好きだからな』
『マグノリアもあるよ』
『マジか?明日はそれにする』
機嫌の直った花宮は、自分からドライヤーの位置に飛び降りた。
『早く乾かせ』
『はいはい』
俺様なお狐様をブローし、念入りなブラッシングも施す。
『やっぱ、右耳のとこ跳ねてねぇか?』
『もう跳ねてないよ。クリームまでつけて直したでしょ』
合わせ鏡でずっと確認させてるのに、子孤花宮は神経質なチェックをやめない。
『そんなに気になるなら、人型になってみなよ』
『膝から降ろそうとすんな』
『子供サイズなら、膝から降りなくてもいいじゃん』
『人型になるならガキにはなんねぇって言ってんだろ。俺は八尾の妖孤様だぞ』
『花宮、毛は跳ねてないぞ。今日も完璧な毛並みだ』
人型の古橋に言われて、ようやく花宮は鏡を手離していいと言った。
『今日は、俺と瀬戸で会社に行ってくる。システムとマニュアルの更新をして』
『今日もかよ。少しは、原達にも稼がせろ』
『あの二人は悪目立ちしすぎる』
『すぐに騒ぎを起こすもんね』
主に、女子とヤンキーとの。
『チッ。一度、鎖に繋ぐしかねぇな』
愛らしい子狐の姿で毒を吐きまくる花宮。
顔周りを指でわしわしと解すと、せっかくのブロースタイルが乱れると喚く。
女子だ。
『いつもマッサージしろって言うじゃん』
『夜にしろ。朝飯は?』
『大体はできてるよ。んー、マンゴーいい香り』
フワサラの花宮に鼻を近づけると、変態と尻尾で顔を叩かれた。
『人を犯罪者みたいに言わないで』
『この姿ん時ににセクハラすんな。手ぇ出してぇなら、人型になってやる』
ぼふりと煙を出して180pのイケメンになった花宮。
『ほら。好きにしろ』
『ほら、跳ねてないじゃん』
『あ?あぁ』
気にしてた髪の毛を指摘しながら、リビングに移動。
『ねぇ、ねぇ!来週には満開だって!』
妖狐原がソファから跳び跳ねてきた。
背後の液晶テレビには、桜の蕾が映されてる。
『満開か』
『なら、来週は花見だな』
『やった!宴会っ』
『騒ぐな、原』
『ザキー!起きろよっ。花見するってよ!』
『花見!?よし!酒買ってくる!』
妖狐山崎も跳び跳ねた。
『おい、来週だぞ』
『アイスもいるよな?』
『だから、来週』
『花見、花見っ』
『宴会、宴会!』
訂正を入れる古橋を無視して、二匹は跳び跳ねる。

2021.5.20
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