夢 短め

□君が好き2
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『出勤して貰ったけど、店は開けないから』
久しぶりに出勤したカフェ・ローノ。
掃除と、明日からの軽食の仕込みをする事に。
マスターは不審者扱いされずに、無事に帰国。
新しい豆も入手できたそうで、今回の買付は大団円で終了となったみたい。
ただ、全員集合で即開店とはならず、自慢したくて堪らないコーヒー豆をマスターが焙煎して、先ずは味見してくれと。
『んー。初めての味だ』
『口当たりはさらっとしてるのに、後味は濃い。不思議だけど、癖になるかも』
『だろう?』
『でも、渋味が気になるわ』
『私はこれ好き。ルマーンのガナッシュチョコにピッタリだよ』
チョコマニア(オタク)の専通さんが、店名を出してきた。
喜びを通り越してるマスターの顔がヤバい。
『まぁ、これからの季節にはいいかも知れないか』
『そうだろう、そうだろう』
『何か、一品が欲しくなる』
『む』
『甘い物ね。ビスケットとか、ウエハース。チョコレートなら、指で摘まめる』
『濃厚なチーズケーキが食べたいです。過半数はチーズって、ずっしりなアメリカンなやつ』
『おお!いいね‼』
『え、ケーキ置くんですか?』
『え、どうしよう』
『『『…………マスターの店ですよ』』』
『悩むなぁ。ここで作らないチーズケーキなら、コーヒーの香りを妨害しないもんなぁ』
『チーズの配合を変えた何パターンかのチーズケーキを、小さめカットで全種類載せしたのが理想です』
『チーズ60パー、70パー、80パーとかって?』
『です』
『チョコみたい』
『蘭シェルさんなら、ここ専用に作ってくれそうですよね?』
『あ!蘭さんの甥っ子、去年まで語学留学してて、ダイナーでバイトしてたって言ってた』
『本場の、濃厚チーズケーキを食べてきてますね』
『シロちゃん、罪作りだよね』
『そうですか?』
『チーズケーキが頭から離れなくなっちゃうでしょ』
『夢にみてください』
『悪魔だ』
『ケーキ参入かぁ。常連さんも喜ぶかも』
『お皿も増えたから、いいと思う。そうだ、シロちゃん、何枚買えたの?』
『あ、37枚です』
『へっ、そんなに買えたの?』
『セール期間だったお店が多かったんで。あ、今持ってきます』
更衣室から、キャリーケースを引っ張り出す。
吉祥寺で買い漁った品々のお披露目開始だ。
『このお皿、キレーイ。縁の模様の書き込み、すっごく細かいね。手書きっぽいし』
『ベトナムで作られたらしいです。買った中で、一番の高額商品でした』
『私が欲しいや』
『ダメダメ。店のだよ』
『マスター、ケチー』
『渋いのも買ったのね』
キャリーケースから、無作為に新聞紙の塊を取り出して、テーブルに。
皆で、各々が手近な品から新聞紙を剥く。
『無骨すぎて、店に合わないなって思ったんですけど。見れば見るほど、迷っちゃって』
『あー。後ろ髪を引かれたんだ』
『そうなんですよ。繊細なクラッカー載せるとか、華奢なカップと組み合わせたら、面白いかなって』
『あー、白磁と並べると面白いかも。うん、風情がいいわ』
『マフィン山盛りも考えました』
『あはは』
『わぁ、これ。あの青いカップのシリーズみたい』
『あ、それ。そう思って、買いしました。2枚あります』
『わぁ』
『うん。うん。これは、いいな』
『本当だわ』
津坂さんが、カップを棚から持ってきた。
『並べても、違和感ないわね』
『実は、別サイズも4枚あったんですよ』
『え、そうなの?シロちゃん、買えばよかったのに。この色、中々買えない色だよ。もったいないなぁ』
子供のようにアヒル口をするマスター。
『マスターが大きさ指定したんでしょうに』
津坂さんが呆れ顔。
『そうだけどさ。大きさ違いなら、5枚一緒に買われたかったと思うよ』
『実際はシリーズなのかは不明ですけど、実は買いました。これかな』
新聞紙をガサガサと外して、テーブルに置く。
『おおー』
『わぁ、おっきいのと……小さいのは3枚もあるんだ』
『小さめはソーサーとしても使えそうでしょう。3枚も揃ってるから、複数出しにも使えるし。大きいのは、柿崎教授の催しに使えるかもと思って』
『うん、うん、うん。この大きさなら、教授のチョコレートが全部載るよ』
年4回。
このカフェが、貸しきりになる日がある。
柿崎教授は地質学者で、奥さん共々20年来の常連。
数年前に、九州の大学に招かれて奥さんと二人で九州に引っ越した。
奥さんが、専通さんに並ぶかなりのチョコマニアで、持ち込むチョコレートに合うコーヒーをと、毎回マスターに無茶ぶりする。
マスターは、その無茶ぶりを楽しんでて、終日、奥さんの感想と格闘しながらコーヒーを煎れ、コーヒー談義も楽しむ。
柿崎教授夫妻は、マスターの煎れるコーヒーを楽しみに年4回、何があっても東京に里帰りをしてるのだ。

2018.12.25
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