夢 短め

□君が好き
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カフェ・ローノはコーヒー専門店。
無表情のマスターが個人経営してる、座席数15の小さな店。
高卒で入社した建設会社を、7年で退職した翌週。
ハローワークで、たまたま目を止めた求人。
恐ろしく好条件過ぎる内容。
倍率は高そうだけど、面接を申請した。
面接当日。
お店には先に3人いたけど、マスターとの個人面談を終えると暗い顔やムッとした顔で帰っていった。
何言われんだろ?
専門知識がないのに来るなとか?
私もないぞ。
不採用だなと思いつつ、事務所へ。
自己紹介をして履歴書を渡すと、マスターは見もしないで即時採用と言った。
『は?』
『僕の出す、三つの条件を全てのむならだ』
え、ヤバい店?
『まずね』
希望休は不可。
この店は不定休。
お盆、年末年始も開店。
週1は確実で、月に8日の休日は取らせるけど、労働者側の希望休は不可。
また、マスターの都合で長期休業もあり得ると。
私用は優先できず、収入が不安ならムリと言うわけだ。
『それは、OKです』
独り暮らしで、自己都合の用事はほとんどない。
貯金もまだあるし、週1休が確実なら給与を選ぶ。
『次はね』
香水厳禁。
エクステ、付け睫、付け爪やネイルアートの派手な化粧も不可。
コーヒーの香りをダメにするし、店内の雰囲気に合わないと。
日焼け止めとファンデーション程度の自分は、マスターの規定でOK。
逆に、リップくらい塗らないと女の子はダメと言われた。
『最後が、一番重要なんだけど』
気持ち悪がらないで聞いて欲しいと、前置きされた。
うわ。
やっぱ、隠れてアンダーグラウンドでディープな?
マスターは、ぼそりと。
それを口にした。
Fカップ以上である事。
『はい?』
最後の条件は店の都合と、マスターの趣味が関係するそう。
『見たところ、君はGカップ。アンダーは75。ここで採寸させて貰えるなら、働いて貰いたい。制服は2日で作るよ』
ブラのサイズを当ててきたのが吃驚。
『あの』
『この店の制服は、胸が大きくないと着こなせないんだ。僕は女性の豊満さを隠さず、エレガントかつ愛らしいエプロンドレスを作るのが趣味なんだ』
『はあ』
何と、マスターは巨乳オタク。
巨乳メイド衣装の世界では【品格の匠】と呼ばてるそうだ。
その話で逃げた人は少なくないと、マスターはシュンとした。
巨乳用衣装製作が趣味……。
『そんな事なら、問題ないです。変な事に関係させないって誓約書をいただけるなら、OKです』
マスターはその場で誓約書を書いてくれた。
ならばと、採寸して貰った。
二日後には、紺色の上品なエプロンドレスを二種類も渡された。
三軒隣の靴屋で、茶色のローファーをマスターと靴屋の店主が頷くまで履きまくったのは、その日の午後一。
今では、15着も支給されてるエプロンドレス。
品質上、家庭では洗えないので店でまとめてクリーニングに出してる。
私は自腹ゼロ状態。
倍率が高かっただけあって、マッタリ労働でしっかり貯金ができるほど稼げてる。
賄いは好きな物を作っていいし、コーヒーの知識も細々と積立て、わずかだけどキャリアアップ中。
マスターの長期休業もまだないし、実働時間は7時間以内。
とても好条件の職場。
神様に感謝した。

『白河さん。俺とつきあってください』
9月も終わる頃、常連客に告白された。
休憩時間、賄いに作ったチーズトーストを食べながら末席で読書をしてたら、横に立った人影。
見上げれば、今日も私がコーヒーを運んだ常連客。
彼氏いない歴25年の私に、神様が悪戯をしたんだと思う。
だって、イケメンで高学歴と思える彼は、高校生だから。
『俺とつきあってください』
再度告白してきた事で、注目を浴びてしまった。
客の動向を気にしないマスターさえも、私を見てる。
『他をあたってください』
『白河さんフリーですよね。一週間考えてください』
彼は名刺サイズのメモをテーブルに。
『簡単なプロフィールです。参考にしてください』
チラリと視線を向ければ、名前より先に高二と入る。
うん。
高校生じゃん。
『犯罪者になりたくない』
メモを返す。
『俺の親が認めれば、淫行罪には問われませんよ』
再びメモをテーブルに置く彼。
『じゃ、了承取ってから、再チャレンジしてください』
私も、再びメモを返す。
『俺の何がダメですか?』
年齢に決まってる。
『容姿が問題なら、白河さんの好みに変えます』
『主体性のない人は好きじゃない』
『本当に好きなんです。一週間、考えてください』
微笑み去ってく彼は、後ろ姿もイケメンだった。
『シロちゃん、どうするの?』
マスターが尋ねてきた。
『あり得ません。彼、高校生ですよ』
テーブルに残されたメモは、個人情報。
細かくハサミを入れ、可燃ゴミの袋に入れた。
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