02/06の日記

15:58
狂愛教師は優しく微笑み殺人者の手で少女に触れる / シリアス / 満→未彩
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【狂愛教師は優しく微笑み殺人者の手で少女に触れる】

教室の隅に置かれた席に付く一人の少女――清上院 未彩に、その教員――藤咲 満は恋心を抱いていた。
未彩はどちらかと言えば大人しく、物静かと言ってもいい少女で、休み時間は外で過ごさず、自分の席に着いて難しい本を熟読しているような生徒だった。
他の年齢相応に騒がしい女子達が互いの噂話に華を咲かせながら連れだってトイレに向かう時も、自分の席で窓の外を眺めているような、周囲に流されず下手に騒がない未彩を、満はいつの間にか好きになっていた。
偶然近くにいる他の女子達の甲高く煩い声が鬱陶しい時、満は自然と未彩のいる教室の隅の席の近くに足を運び、未彩に対して、何の本を読んでいるのか? 窓の外の何処を見ているのか? 等と言った事を尋ねては、丁寧に落ち着いた声で返答する未彩の声に聞き入っていた。
未彩が満の質問に答え、たまに小さな笑みを見せる度、満は自分の心が未彩に受け入れられているような気分になり、今すぐにでも未彩を抱きしめたい衝動を抑える事に苦労するのだが、その苦労すらも満にとっては甘美な喜びの一つであり、満はいつも未彩が微笑んでくれるような質問を考える事に躍起になっていた。
そしてその度に、いずれ未彩がこの学校を卒業し、一定の年齢になったなら、その時はこの愛を伝えようと、決意を新たにしたものである。
そう、この時点ではまだ、満は今のままの関係を暫く続けていく事を考えていたのだ。


しかし、とある男子生徒が満の担当するクラスに転入した事により、事態は大きく動く事になる。
何故ならば、男子生徒は不良染みた行為を繰り返す問題児であり、他人への過度な嫌がらせ――虐めを楽しむ事の常習犯であったからだ。
虐めを楽しみと捉える生徒の出現によって教室に広がり始める不穏な空気、その空気の犠牲に選ばれた生徒は、満が密かに思いを寄せる生徒である、あの未彩だった。
未彩と男子生徒の間に何があったのかは分からないし、もしかしたらそもそもは何も無かったのかもしれないが、二人はどうにも相性が悪かったようで、男子生徒は事あるごとに、否、事が無くても、未彩を貶す暴言を吐き散らすようになっていったのである。

不良染みた男子生徒が未彩に罵詈雑言を浴びせ始めて数日、それは感染症のように教室中へ広まり、未彩は徐々に教室での居場所を失っていった。
罵詈雑言が発されるスピーカーが増える度、未彩は徐々に精神的な衰弱に追い込まれる。
その姿に酷く胸を痛めた満は、未彩と数多の生徒の間に割り込んでは件の男子生徒を中心とする複数の生徒を叱責し続けたが、それでも未彩への罵詈雑言が減る事は無かった。
それどころか、満が強い叱責をすればするほど生徒達はその鬱憤を未彩にぶつけてしまうという悪循環さえ生まれ、未彩は更に弱り、満はこれ以上はない焦燥感を覚え続ける事になった。
巧妙に虐めを隠そうとする生徒達に翻弄されながら、どうすれば未彩を救えるのか? という事だけを考え続ける日々に、満の精神も徐々に追い詰められていく。

そんなある日、満はやや久々にあの男子生徒が直接未彩を虐めている場面に出くわした。
右手で未彩の胸倉を掴み、未彩の身体を壁に押し付けながら、右足で未彩の両脚の脛を蹴る男子生徒を見た瞬間、満の脳内で何かが千切れた。
脇に抱えていた出席簿をその場に落とし、衝動的に男子生徒の背後に駆け寄り、左腕を捻り上げた満の目に沈む感情――殺意。
この時、満は確信したのだ。
この不良気取りさえいなければ、未彩への悪意が教室に広がる事は無かった。
そして、教室に広がった悪意の頂点はこの不良気取りである、つまり――この不良気取りさえ殺せば、未彩は救われる、と。


一つの希望に辿り着いた満の行動は早かった。
未彩と男子生徒の直接衝突から数日後、男子生徒は教室から姿を消したのである。
男子生徒は喧嘩っ早い不良であった為、他校の生徒や年上の不良との喧嘩で大怪我でもして入院したのでは? という憶測が教室を飛び交い、それを偶然耳にした未彩は、もしそうだとしたら少し清々する、という気持ちになった。
しかし、その数日後、急に開かれた全校集会で壇上に上がった校長の言葉に、未彩は耳を疑い、目を見張る事となる。

「昨日、当校の生徒である佐野山 良助くんが、遺体となって発見されました。」

校長と教員達、そして未彩以外の全ての生徒が男子生徒に黙祷を捧げ始めた時、未彩は密かに満へと視線を向けた。
それは、まさかそんな、さすがにそのような訳は、と溢れ出る不安を打ち消すための行為だったのだが、未彩に視線を向けられた満は、顔を僅かに伏せてはいるものの、黙祷などしてはいなかった。
その目は、僅かに細められたその目は……間違い無く、未彩に向けて微笑んでいたのである。
男子生徒が死んだ事を喜ぶような、むしろ誇るような、そのような視線を受けた未彩の背筋には、非情に強い悪寒が走った。


放課後、他の生徒達が既に居なくなった教室に、未彩は満を呼び出した。
未彩は綺麗に並んだクラス人数分の机を背にしながら、黒板と教卓の前へ立っている満へ問いかける。

「……どうして、殺したんですか。」

満を責める、と言うよりは、満の何か――良心や正気――に縋るような未彩の視線。
それは、満が男子生徒殺しを否定する事、或いは、男子生徒殺しにいくらかの罪悪感を覚えている事を期待しているようだった。
しかし、そのような未彩の期待を、満はいとも簡単に打ち砕いてしまう。

「勿論、愛する君の為さ!!」

満は狂気と歓喜の混ざり合ったような、歪んだ表情を浮かべて宣言したのである。
余りにも自信に満ちた様子で高らかに宣言する満に、未彩はただ目を見開いて体を強張らせる事しかできない。
満は立つ事すらやっとの状態になっている未彩に歩み寄ると、その頬に右手で――男子生徒を殺した時にナイフの柄を持っていた右手で、柔らかく触れた。
人殺しの手に触れられた恐怖に小さく震える未彩の耳元で、満は囁く。

「未彩ちゃんにとって脅威になる奴は、僕が全部片付けてあげるからね。」

そうして微笑む満は、今や自分が未彩にとって一番の脅威である事を、まだ知らない。


End.

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本当はVOCALOIDの氷山キヨテルと歌愛ユキで書きたかったのですが、ボカロ小説用の置き場が本館にも此処にも無いため、とりあえず藤咲 満と清上院 未彩で書いてみました。
自作曲の『Teacher of Insanity Love』っぽい話です。完全再現ではありませんが。
終盤の「放課後、他〜知らない。」の辺りはいずれ書きたい絵が描けた時に、満をキヨテルに、未彩をユキに変更してニコ静の画像説明文に使用するかもしれません。

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