次ノ問ヒニ答ヘヨ

□第一章 次の各問いに答えよ
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 ⑴ 人間は考える葦である
 
 
 「もう! こんな所で寝て!」
 私の目の前には、探偵社の入り口ドア前の床で倒れている人がいる。
 「後、十日・・・追加で一週間・・・寝かせて・・・」
 ・・・・・・因みにこの人は、私の勤めている探偵社の所長兼、唯一の探偵である(私を除いては)。
 「・・・何時だと思ってるんですか?」
 「うんと、・・・・・・朝4時?」
 「もう昼の12時越えてますよ」
 「ふーん・・・おやすみ」
 「・・・起きてください!」
 私は、煤の付いている服を蹴りながら彼を無理やり起こした。
 「いてっ! もう少し寝かせてくれよ、昨日は深夜5時帰りだったんだから・・・」
 「それって、今日の朝でしょ? だったらそのまま起きててください!」
 私はそう言いながら、彼・・・いや、零思さんを居間の机の前に座らせた。すでに、私の作った昼食が並べてある。
 「そんなこと言っても、本当は優しい癖に」
 「な、・・・そんなことないですよ!」
 「いいや、そうだね! 現に今の時刻は正午を少し回ったところ。私の帰ってきた時刻は深夜・・・いや、早朝5時。そこから数えて、単純計算7時間もある。その間、智恵ちゃんはおそらく7時ごろに起きて私を発見していたはずだ。そう考えると、今の今まで私をあの場所で寝かしていたのだろ? これを優しさと言わず、なんという?」
 「『呆れ』・・・ですかね」
 「・・・よくものを言うようになったね。・・・いや、質のあることを言うように、かな? 」
 「なんですか、いきなり」
 「なんでもない。とにかくご飯食べよう」
 こうして私たち2人は、探偵社用の部屋の横にある部屋で昼食を食べ始めた。
 「う、朝から肉とは・・・」
 「昼食です。昼です。起きていないのが悪いんでしょ」
 私の名前は、考藤智恵理(かんどうちえり)。今年で25歳です。探偵にあこがれ、探偵になることを夢見ていた普通の女の子です! 実際に夢が叶い、あこがれの探偵生活を送っていますが・・・・・・この探偵社、他とはかなり違うんです。
 
 「はぁ〜、やっぱり知恵ちゃんの作るご飯はおいしいなぁ〜」
 この人は、この探偵社の所長兼、現役探偵の哲翁零思(てつおうれいし)。今年で27歳の男。はっきり言って変人。研究の中でも、世界トップクラスを誇る兎久比(つくび)大学大学院の出身。大学院を特殊令で卒業させられ国直轄のこの探偵社を開いています。
 私の探偵としての師匠であり、恩人です。
 「は〜、食べた食べた」
 「いつも通り、早いですね」
 「こうでもしないと、時間がないのでね。それにしても、眠い!」
 「食べたばかりで、寝ちゃいけませんよ?」
 「分かってる。少ししたら寝るから」
 「それもだめです。ちゃんと目が覚めるように顔洗って、お仕事してください!」
 「あのね、さっきまで仕事してたんだよ? 徹夜したって残業手当出るわけじゃないし、それに労働基準法ではしっかり一日の休憩時間が書いてあるし・・・」
 「休みなんてなし! 年中無休! 残業手当は平和な日常!」
 「・・・あいつらよりもおっそろしぃ〜」
 「何か言いましたか」
 「いえ、何も」
 「では、後片づけは私がやりますから、零思さんは顔洗って仕事してください」
 「はい」
 「あ、あとそのロングコートの煤も掃っておいてくださいね」
 「はい」
 「分かってます? 」
 「はい」
 「・・・論語の中に出てくる教えを一つ上げてください」
 「はい」
 「空返事じゃないですか!」
 「ひぃぃ! ごめんなさい!!」
 「まったくもう」






 ⑵ 考えなくてはならないことは
         徹底的に考える
 
 
 零思さんは、私が片づけをしている間に顔を洗い、ロングコートの煤も掃っていつもの通り、自分の机に向かっていた。私は、お茶を淹れて零思さんの机に向かった。
 「お茶、入りましたよ〜」
 「・・・・・・」
 「? ・・・どうしたんですか?」
 「あ、・・・いや、あいつらの証言をまとめていたんだけれど、どうも食い違いがあるようで・・・」
 「『食い違い』、ですか・・・」
 「うん、あ、あと眠い」
 「起きていてください」
 
 私がお茶を渡しながら言うと、零思さんは「はいはい」と言いながら私の淹れたお茶を机横の、壁に埋まっている棚に置いてある女性の写真の前に置いた。実は、零思さんは、この人が誰なのか私に話してくれたことがありません。
 
 私は、零思さんに湯呑に淹れたお茶を渡し、自分の分のお茶を淹れると自分の机まで行き、テレビをつけた。
 テレビでの情報収集も探偵のお仕事です。
 
 《今日、午前5時ごろ東京都西区中央公園内にて、世間を騒がせていた連続殺人犯が逮捕されました。》テレビのニュースで流れていたこの記事を、私は漏らさず聞いていた。
 これはおそらく、零思さんの活躍した件でしょう。
 然し、直接この件にかかわっていたわけではないのです。さっきも言ったように、この探偵社は少し変わっているのです。
 
 「やっぱり、誰も来ないじゃん・・・ちょっと寝てよ」
 
 零思さんはアイマスクを着けてしまったので、しばらく起きません。依頼者も来ないので、私もはっきり言って暇です。
 
 「とりあえず、まとめておこうかな」
 私は、机の横に山積みになっている膨大な資料の整理に入った。
 整理をしていると、ふと一つの資料が目に留まった。
 《インテルガトスについての考察
 近年の犯罪傾向のグラフと、我々の研究対象であるインテルガトスの増幅グラフの比較を行ったところ、比例して増えてきているとみられる。
 このことから、インテルガトス自体が犯罪に関与していると考えられる。又、軽犯罪については短期間の社会からの隔離によってインテルガトスを自然消滅できるが、それ以外の犯罪については隔離のみではインテルガトスの消滅は図れないと言える。》
 
 この資料はおそらく、こいつについての初期研究段階の資料でしょう。何せ、零思さんが発見・研究しているのだから! 
 それにしても、金庫から出したなら戻してほしいものです。
 
 私は、粗方資料を片づけると、ほっと一息つき歴史書を読み始めた。
 
 最近、「人間的思考促進法」が制定されてから、五年になるというので歴史書からその経緯を改めて考えてみようと思ったのです。ただ、何分此処がそれに密接に関係しているせいで、大方分かっているんですけどね。
 
 私は、何回も読み返しているページを開いた。
 《2002年5月、アメリカ研究者らアカシックレコード発見。
 同年11月、アカシックレコード解読成功。これにより、技術革新がされ続けた。
 2003年、世界から謎が消えた。》
 「・・・」
 《2013年、日本政府が「人間的思考促進法」を制定。》
 
 どうして、世の中はこうなってしまったんだろう。
 
 ガチャッ
 「あのぉ・・・」
 頭の整理をしていると、一人の女性が探偵社に入ってきた。
 「え? ・・・あ、ああ、はい、何でしょう?」
 驚きながらも、私は話を聞きに行く。
 「あの、ここ探偵社ですよね?」
 「はい! 哲翁探偵事務所です!」
 「実は、依頼があって来たんですけど・・・」
 
 なんと、依頼主でした。
 
 「あ、ではこちらにどうぞ!」
 私は、零思さんを起こしに行こうと零思さんの机のほうを向いた。すると・・・
 「どういったご用件でしょうか」
 零思さんはすでに応接机の前にいた。いつものことですが、行動がはやい。
 「あ、実は・・・私の周りで不可解なことが起きているんです・・・信じていただけますか?」
 「勿論ですよ。というより、話していただかなければ分かりません。どうぞ、話して下さい」
 女性は、応接机のソファに座りながら話を始めた。
 「はい。実は、最近友人の様子がおかしいのです。何を言ってるのか分からなくなったり、いきなり変な挙動をしたりするんです。さらに、このことは本人はおろか、周りの人も認識していないんです! 今まで、さまざまな探偵さんに彼女の調査を依頼したのですが、どこに行っても『あり得ない』の一言で追い返されてしまい、誰も信じてくれませんでした。そんなときに、前に行った探偵社さんでこちらなら対処できるのではと伺ったので・・・」
 
 なるほど、だからおどおどしたように話しているのか。
 
 「なるほど。つまりは、そのご友人さんの調査依頼ですね」
 「はい。お金ならいくらでも用意します。なので、ぜひとも・・・」
 「勿論です。言ったでしょ? 信じるって」
 「でも零思さん、その行為って依頼人さん以外感じられないんですよね? どうやって・・・」
 「まあ、とにかく受けよう。お金は、達成後にいただきます」
 「あ、ありがとうございます!」
 依頼人の女性は泣き崩れた。
 「では、依頼主さんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
 「はい、・・・小野田輝実小野田輝実(おのだてるみ)です」
 「では、輝実さん、正式に依頼をいただくため、書類に記入をお願いしたいのですが」
 そう言うと、零思さんは依頼用の書類を出した。輝実さんは書類に記入をし、正式にこの探偵社で依頼を受け持つことになった。
 輝実さんを見送った後、
 「あ〜あ、見えない行動か。どうしよう」
 「零思さん、なにか策でもあるんじゃなかったんですか?」
 「ん〜?何もないよ?」
 「・・・」
 
 絶句です。何も策がないままに依頼を受けてしまったなんて。
 
 「まあ、見当はつくけど」
 「え?やっぱり策、あるじゃないですか」
 「策じゃないよ。まだ仮説段階」
 「はあ」
 「とりあえず、彼女の友人宅に行くことにしよう」
 「じゃあ、バイクのエンジン温めておきますね」
 「まだ早いよ」
 「え? 今から行くんですよね?」
 「いや? 夜だけど」
 
 
 
 
 
 
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