この世成らぬ地の

□#04
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相変わらず物の多い部屋を、蓮はきょろりと見渡した。
分厚い本からなにかを記した巻物、そしてたくさんの金魚草を模したなにか。
少しばかり薬品臭いここは、あの頃と変わらず"鬼灯の頭の中"という感じがした。

あぁ、相変わらず集めてるのか。

ちまちまとした食玩が並ぶ棚。
そこにはいつかも見た懐かしいものが変わらずに並んでいた。
それを少し懐かしく、微笑ましく思えばふいにドアが開いて光が射した。
光のなかにいたシルエットは…。


「犬…?」
「だぁれ?」
「犬こそ、誰だ?」
「僕?僕シロだよ。不喜処で働いてるの」
「あぁ、不喜処の。私は蓮だ、どうしてここに来たんだ?」


腰を屈めて問いかけると、シロはしょんぼりと俯いてぽつぽつと言葉をこぼした。


「鬼灯様に色々教えてもらおうと思ったんだけど、どこにもいないからお部屋にいるのかと思って来たけどいないの」
「そうか」


もふもふの頭を撫でながらに蓮はそう返す。
するとシロはそのアーモンド型の瞳を輝かせた。


「ねえ、蓮さんはどうしてここにいるの?」
「私か?私は鬼灯にここで待てと言われたから待っているだけさ」
「じゃあ鬼灯様、ここに戻ってくる?」
「そうだろうな。遅かれ早かれ戻っては来るだろう、あいつの部屋だし」


食玩を一つ手に取りながら呟く。
するとシロはその言葉に対して、盛大に尻尾を降っては答えてくれた。


「早く帰ってくるといいね」
「はは、そうだな」


久しぶりに見た純粋な喜びは、胸に暖かな感情を注いだ。


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