この世成らぬ地の

□#01
2ページ/2ページ


地獄では今日も断罪という名目の拷問の繰り返し。
暗く血生臭いその地を悠然と歩く絶対的な人型はそう多くはいない。
が、しかしあの女ー蓮は臆することもなく、まるで自宅の庭を歩くかのように悠々と歩くのだ。


「鬼灯は今日も仕事だろうなぁ」


大量の書類をさばく鬼灯を想像しながら閻魔殿へと向かって歩く蓮。
緩く上げられた口角が妖しさを醸し出す。
その姿は奇妙・面妖・妖艶の代名詞と言えるだろう程に稀な姿だ。
そんな蓮は重々しい雰囲気を醸し出す地獄の門にも動じることはなく、どこか馴れた様子で中に入りこんだ。


「こんにちは、鬼灯はどこにいるかしら?」


門の近くにいた男にそう話し掛けると、まわりはギョッとした目で蓮を見た。


「ほ、鬼灯様ならたぶん閻魔様の所だと…」
「そう、ありがとう」
「いえ…」


半作り笑いを浮かべて礼を言い、蓮は閻魔のいる部屋へと真っ直ぐに向かった。
足取りに迷いはない。


「あの女、鬼灯様を呼び捨てにしてたな」
「あぁ。怖いもの知らずなんだろうな」


しみじみと呟いた男達の言葉など気にもせず、蓮は大きな門を押し開けた。
もちろんのことだが、彼らは鬼灯と蓮の関係など知っているはずもない。


「鬼灯!!」


地を揺らすような声が部屋に響いた。
静寂と粛々とした雰囲気は一息に消えてしまう。


「っ!!!」
「っわぁ、びっくりしたぁ。蓮ちゃんかぁ」
「蓮さん、あなたは…」
「久しいな」


口角を上げて笑った蓮。
その顔に最初は呆れ顔を見せた鬼灯も、いつもよりやわらかい表情で言葉を返す。


「はい。お久しぶりです」


.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ