メモ

□不幸少女の理想的未来
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「しら、ない…」


消えかけた声で答えるのが精一杯だ。


「知らない?そんなわけないだろ!!」


キレ気味な荒れた声と同時に腹部へと蹴りがめり込んだ。
蹴られた、そう理解することにはチルはもう痛覚も感情も放棄していた。
慣れたことだ、いつものことだ。
そう思って耐えるのは、いつのまにか染み付いてしまった癖のようなもの。
そして攻撃が止んだかと思えば、今度は胸ぐらを捕まれて強制的に立たせられた。
無理矢理合わせられた目には狂気が宿っていた。
しかしその目に動じることはない。
生まれたときから無意識のうちに嫌われる。
母親だって父親だって、皆してその目で見る。
だからそれが例え今初めてあった人間でも、長い付き合いになってしまった人間でも、ダメージなんてものは同じだ。
最初から誰にも、期待していない。


「どこの海賊団だ?今なら隊長たちに口添えしてやるさ」


その言葉が理解できない。
理解力がない訳じゃない、そこまで頭の悪い人間ではないのだ。
なのにそうなのは、海賊だなんて言葉は映画や子供のお伽噺のなかだけのものだ。
それを真剣な顔で、憤慨の色を瞳いっぱいに広げて、真面目な声で言われてみれば理解することを戸惑う。
だって簡単に、はっきり言うなら、そんなことは信じられないから。


「か、海賊なんて、そんなわけない。一般市民だよ、ただの、女子高生だよ…?」


わけがわからない。
そして彼らが意味を理解できていないような顔をするのが、とても怖い。
望んだ、確かに望んだけれど。


「…ほ、ほんとに違う世界に行けるわけだと思った訳じゃない」


かすれた声は、誰にも届かないだろう。


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