メモ

□からくり姫様
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世は戦乱の真っ只中。
血で血を洗うような戦いが常であるその世界で、今日も難攻不落の城で彼女は涼しげな顔をしていた。
四国は長宗我部の持つ富嶽にも近いカラクリ城。
それは入れたとしても彼女の元へはたどり着けず、城に喰われるとさえ揶揄される地獄城であった。
城主は年若い女、城の警備に人はいない。
大きな土地でもないその国は、戦が起きればその城に民を隠して守り抜いてきた。


「根性なしか?出て来な!」


政宗はそう城に向かい吠えた。
けれども城主はそれを見下ろしたまま、ぴくりとも動こうとしない。
表情が読み取れないくらい上から見下ろされることは、政宗にとって屈辱的だった。


「オー」
「私には、」


政宗の言葉を遮って、彼女は聞こえるギリギリの声で告げる。
初めて聞いた彼女の声は、思っていたよりも細く、そして震えていた。


「私には、戦場で戦える力がない。非力だし、お前たちのような婆沙羅もない。だから、耐えて耐えて、民を守るしかない」


その辛さが、お前にはわかるか?と微かに濡れた瞳が問いかける。
その瞬間、政宗は確かに感じた。
彼女の中に巣食う魔物と、それに耐える強さ。
投げ出したいと叫びたいのだろう。
すべてを捨てて逃げ出したいだろう。
けれどそれを押さえ込んで、一生懸命に前を向く。
自分が護るべきものだと叱咤して前線に立つ。
それはどんなに怖いことだろうか。
自分にはわからない守る強さのないという恐怖。


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