抜き身に気を付けて

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歴史の分岐として切り捨てられた聚楽第の軌道修正が義務となり、その優良実績として長らく政府預かりとなっていた山姥切長義が本丸に来た。
彼とは旧知の仲であったが私情を挟むような相手ではないとわかっていた。
2足のわらじというハンデがあっても、加算がないとしても。
ほかの審神者と同じようにノルマをこなせば、彼はこの本丸の評価を優良とした。
忍自身がかつてこの本丸につけた要監査対象という最低の評価を塗り替えた瞬間だ。


「また改めてよろしく頼んだぞ」


長義の言葉に懐かしさを覚える。
顕現の力はなくとも、こうして時折肉の身を持ってやってくる刀剣男士を待ちながらこの本丸は歩みを進めるだけだ。


「あの本丸、調子はどう?」


上司からの問いかけには使い慣れた返事。
それは誰が聞こうとも適当な返事だが、それでも彼はその言葉に深く問いかけては来ない。


「まあ、なんとか」


うっすらと浮かんだ表情に、色々くみ取ってくれる出来た上司だ。
出来上がった書類に目を通しながら、片手間のように「無理するなよ。お前に辞められたら困るしな」なんて言う。


「辞めないですよ〜。これくらいしか出来ることないですから」


目を通して確認を貰った書類を受け取り、そう返事をする。
忍の膨大な神力は確かに貴重なものだ。
だからこそ、審神者として足りないものがあっても政府が手放すことを嫌がった。
こうして最終的には2足のわらじとなったが、たとえ職員という立場でしかいられなかったとしても彼女はクビを切られることはなかっただろう。
取れかけたピアスをつけ直して、忍は今日最後の本丸訪問に向かう。
何一つ、彼女にとっては変わりない日常が、これからと淡々と続いていく。


「こんばんはー、違法本丸解体屋でーす」




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