抜き身に気を付けて

□#23
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全てをなかったことになんてできない。
それでもできる限り最初のいざこざも、前審神者の悪事も、なかったように穏やかに行きたい。
そう思ったのは忍だけではなかったようだ。


「改めて、よろしくお願いします」


頭を下げた彼女に彼らも同じように頭を下げる。
これがようやくスタート地点だ。
2足のわらじの時点で他の審神者と同じではないし、そも、政府の現役職員な時点でスタートラインが同じになるわけがない。
それでもできる限り他の審神者と同等に贔屓なしで職務にあたるつもりだと彼女は述べた。


「不束者ですが、どうぞこれからもご協力ください」


あまりにも真摯な忍の姿に少なからず彼らは驚いた。
ファーストコンタクトがあんなにも不真面目そうでぬるい様子だったのもあるだろう。


「…こちらこそ、よろしく」


前審神者の初期刀、加州清光が居住まいを正して頭を下げた。
お互いが頭を下げ直して、その場の空気が入れ替わる。
ゆっくりと頭をあげた忍が最初に見たのは、顕現した時のようなカラリとした彼らの顔。
誰一人として不満を持っていなさそうなその顔に忍は一安心した。
鍛刀ができない彼女が審神者になることなど本来は叶わないこと。
本来政府職員が本丸を持つこと自体異例でもある。
忍に関しては刀剣男士からの指名であったからなおさらだ。
一悶着も落ち着いて、ようやく腰を据えて仕事に取り掛れるというもの。
久々にピンと背を伸ばして下げた頭は少しだけ重たく感じた。




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