抜き身に気を付けて

□#22
1ページ/1ページ


ゆっくりと部屋の中に深呼吸の音が満ちていく。
少しずつ落ち着いていく音のなかで、ようやく身なりを正した彼らが忍と向き合う。
赤く腫らした目と鼻だけが揃いだ。


「私を指名したのが小狐丸、てことしかわかってないんだけど、話進めていい?」


忍はどこか疲労感を携えて問いかける。
声こそないが、数名が頷いて返事をした。


「そ、じゃあまず最初なんだけど、」


そう言って彼女はこの本丸に何故監査という名の処罰が入ったのかを説明した。
そもそも審神者が悪いのだがこういう説明をしない限り、大抵は全て政府が悪いと陰口を叩かれるのだ。
無知とは恐ろしいと、陳腐ながらにそう思う。


「前提として、前の審神者が規約違反をしたからこうなった、てのは理解して欲しいんですわ。あと君たちが泣いてるのは悲しいとかじゃなくて、神力が馴染んだ時に起きる人間的感覚の錯覚だから。神様は人を失っても泣かないでしょ」


淡々と、冷え冷えと。
忍はそう口火を切った。
そして書類を読み上げるように前審神者の規約違反を語る。
彼らの傷が放置されていたことよりも、彼らを金儲けの道具にしたことの方が今は重大な事案だ。
そしてなおかつ、その金がどこに消えたのか定かでないこと、このことを彼らに伝えた。


「まあ、変だとは思ってたけどそういう事だったんだ」


どこか腑に落ちないという風だった加州も忍の説明にようやく納得がいったようだ。
そも、彼ら刀剣男士は審神者という自分の主に対する執着が強い。
刷り込みに近いそれを崩すのは本来骨の折れる作業だが、彼らは物分りがよかった。
こうして淡々と語り、説明し、真実を告げれば彼らは納得して理解して了承した。


「だから正直、大和守安定が私の言ったことをやらなかったってのは十分にありえた。それを知っているのに念押ししなかった私の失念。だからその件については不問です」


はっきりとそう言い切れば居心地悪そうだった彼が少し安心したように眉を下げる。
けれどもそれだけで話が終わるわけもなく、今度は念押しする。
神気を込めた言葉は重たく、彼らの芯を震わせた。


「でも、これからは私がここを仕切る審神者。言うことは聞いてもらいます。今日は、もう疲れた。細かいことは明日の午後に」


そう言って解散を言い渡した忍は重たい体に鞭を打って部屋を出た。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ