世界を彩る

□#16
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「そう言えば、お名前を聞いていませんでしたね。私は九織星といいます」
「…後藤又兵衛」


小さな声で答えた彼はとても居心地が悪そうだ。
目線がキョロキョロと忙しなく動いている。


「又兵衛さん、あなたは今、さっきまでいた世界とは別の世界にいます。ここではあなたの身分を証明する物がないのでここで生活してもらいます。異論はありますか?」


無表情にツラツラとそう並べた織星。
その言葉は信じることのできない突飛な話だが、ここにいる三成たちは本物であった。
そう考えると、これは信じたくないだけの事実のようだ。


「証拠はあるんですかあ?」


疑うような言葉を投げかけながらも、彼は薄々それには気づいているのだろう。
視線は疑うというよりは切望しているようにも見える。
だからこそあえて織星は突きつけるのだ、残酷な事実というものを。


「じゃあ、家の中を案内しましょうか。あなたたちがいたころとはだいぶ構造も違うでしょうし」


そう告げて一度キッチンへ引っ込むと、何を思ってか織星は包丁を持ってきたのだ。
そしてそれを又兵衛に手渡すと、至極真面目そうな顔で話す。


「武器がないと不安でしょう?私は嘘は言っていませんが、あなたを攻撃するものがないとも言いきれませんから持っててください」


しっかりと持たせた包丁は刀よりは断然軽い。
けれども持たされた意味はなによりも重いものだ。


「自分が斬られるとは思わないんですかぁ?」


素直な質問を投げ掛ければ、織星は目を細めて又兵衛を見つめる。


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