世界を彩る

□#12
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吉継は疑問でならなかった。
女手一つで大の大人四人を世話するなど、正気の沙汰とは思えない。
それに服を買いに立ち寄った店では、随分と相手に腰の低い対応をされていたのだから只者ではないのだろう。
しかしいざ問おうとすれば、タイミング悪く誰かが織星を連れていく。
もちろん少し前まではそんなことも気にせずに質問していたのだろうが、なぜだかそれがはばかられたのだ。
結論からして、吉継は自分の疑問を未だ解決できずにいた。
腹の中に隠すその疑問。
聞く聞かないの押し問答を繰り返し続けていくらも経ったし、いくらも経っていないだろう。
そんな中途半端なタイミングで織星は吉継の顔を覗き込んで話しかけた。


「体、辛いですか?」


その一言の意味が、一瞬吉継には分からなかった。
不幸を背負った不自由な身を疎んずる者はいても心配する人は少ない。
いたとしても医者と三成や仲のいい関係にあったごく僅かだけだ。
こんな短期間で心配されるほど信用も信頼も築ききれていない間柄の人間に言われたのは初めてだった。
幼子さえも気味悪がった自分を心配されるのは、きつく胸を締め付ける。


「吉継さん?」
「…あい済まぬな、ちと呆けておっただけよ。大丈夫、ダイジョウブ」


空白をおいて答えると、それを信じてか織星は眉を垂らす。
笑みにも似たその顔は、よく半兵衛が零していたそれによく似ている。


「ならよかったです。無理しないで言ってくださいね」


その言葉が、胸の中にあった闇を払拭していく。
一言で救われた気がした心中は、今までで一番穏やかなものだった。

***

服を買い、日用品を揃え食料を買い漁った。
久しぶりの散財は中々に心地の良い物だったと運転をしながらに思った織星は常人とは随分とズレた感覚を持っているようだ。
布団以外は宅配してもらうことにして、それ以外は車に詰め込む。
もともと大きめの車だったが買った荷物が多かった為少し窮屈になってしまった。


「さて、買うものも買ったんで帰りましょうか」


車に乗り込み、ややぐったりした四人へそう声をかける。
吉継の乗っていた車椅子を元あった場所へ返せば、いつでも帰れるように用意は整っていた。
エンジンをかけ、ゆっくりと動き出す車。
ゆりかごのような心地良い揺れに睡眠欲を駆り立てられる彼らは、今は必死で眠らないように目を開いている。


「寝てもいいよ」


優しく声をかけるが、四人は頑として拒んでいる。
プライドなのかなんなのかはわからないが、彼らの中にはやはりまだ信じきれないものもあるのかもしれない。
けれどそれは織星には計りきれないもので、理解などしきれないものなのだろう。
そんなことを思いつつ運転する車の中は行きとは正反対に気味が悪いくらいの静寂に包まれていた。


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