世界を彩る

□#08
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普段から不規則かつ不健康な生活をしてきた織星。
冷蔵庫の中には牛乳、卵、玉ねぎ、ピーマン、ベーコンしか入っていなかった。
ちなみに牛乳は賞味期限切れだ。
買いためていたパックご飯をチンしながら織星はこの材料で出来る朝食を考える。
本当ならば和食がいいのだろうが、こんな材料じゃ和食はできないだろう。
せいぜい味噌汁が限界だと思えば味噌すらもない惨事(さんじ)だ。


「炒飯とかでいいか」


仕方ないとしか言えない様子で織星は調理の準備を始める。
珍しい自炊に手際はけしていいとは言えないが、少しずつ感覚を取り戻していく。
かすがに時折調理を頼みつつ、簡単に炒飯とわかめのスープを完成させればあとは皿によそうだけだ。


「織星、」
「なんですか?」
「卵、そんなに使って良かったのか…?」


恐る恐るという様子で尋ねるかすが。
どうやら昔は卵は貴重で高価なものだったようだ。
しかし今は平成の世、卵は家計の味方であるしないと困るくらいに浸透した食品だ。


「大丈夫ですよ。今は卵もお米も安いんです」


安心させるようにそう言えば、かつてなく驚いた顔をするかすが。
そしてふっと表情を綻ばせると一言。


「豊かな世になったんだな」


そう呟いた。
まるで幸せそうな声音に織星さえも顔を綻ばせれば、クスクスと笑い合いながら料理を運ぶ準備を進めた。


「持っていきましょうか。きっとみなさんも待ってますから」
「そうだな」


それぞれがお盆を持って料理を運ぶ。
感想が楽しみだと思えるのは、作る段階でかすががとても張り切っていたからだろう。

***

「ご飯の用意ができましたよー」


食卓テーブルに料理を並べていけば声に反応した彼らがやってくる。
時折やってくる人達のために大きな食卓テーブルだったのが幸をそうしたようだ。


「吉継さん、手貸しますね」


ソファに座ったままの吉継のもとへ駆け寄り、織星はそう言って彼の腕を掴んだ。
大した距離ではないが足の悪い彼には負担だろう。


「すまぬなァ」


申し訳なさそうに呟く吉継。
けれど織星は頼まれてやっているわけではない。
結局は自己満足の域を出ないのだ。


「気にしないでくださいよ。早く治しましょうね?」


まるで看護婦やなにかのように優しい声でそう告げた織星。
その言葉に目を細めた吉継はまるでその様をはぐらかすように意地悪い笑みを浮かべた。


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