この世成らぬ地の
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地獄へと帰ってきた鬼灯と蓮。
この後の予定がない鬼灯はゆっくりと蓮といるつもりなのだろうが、どうやら彼女には予定があるようだ。
衆合地獄へと足を向ける彼女に、鬼灯は少しだけ機嫌が悪かった。
「誰かに会われるのですか?」
鬼灯の問いに蓮は「そうさ」と短く答えた。
誰に会うのか答えなかったのが少しだけ不愉快だが、そんなところも変わっていないところなのだからなんだかんだ懐かしい気さえする。
「妲己ぃ」
遊郭の前でその名を呼ぶ。
妲己という名前は知っていたしその者の素性も知っていたが、まさか蓮と繋がりがあるとは知らなかった。
ひょこりと窓から顔を出す妲己。
すると彼女はみるみる表情を変え、窓からふわりと飛び降りた。
「やだぁ、帰って来てたの?」
きゃぴきゃぴとシナを作って言う妲己。
けれどもそれは女同士でも許されるようなもので、蓮は口角をあげて笑っている。
「まあね。遊郭はどう?」
「まずまずよ」
「ぼったくりです」
妲己の言葉を訂正するように鬼灯が口を開けば、まるで今気付いたと言わんばかりに手をパタパタと振る彼女。
「やぁだ、鬼灯様。いつからいたの?」
「ずっといましたよ」
「ホント?気付かなかったわぁ?」
袖で口元を隠して笑う妲己。
美しいから許されるその動作に、蓮はふぅと紫煙を吐き出す。
いつ出されたかは不明だが、その煙管でゆるりと紫煙を撫でるとそれはさはなやかな狐へと姿を変えた。
「化かす化かされるはあとにしなよ。妲己が元気ならそれでいいんだけどねぇ」
「ありがとう蓮。私もあなたにあえて嬉しいわ」
「私も長い付き合いの友人に会えて良かったよ」
「あら、嬉しいわぁ」
コロコロと笑う妲己。
その美しさに紫煙で枠組みを作ると、まるで写真の一部のようだった。
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