抜き身に気を付けて

□#21
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涙でぐちゃぐちゃな彼らの顔は実にみっともなかった。
けれど意味もわからず泣かれているのも嫌で、忍は場所を変えて理由を問う。
広間に移動しただけでは彼等の嗚咽や涙が止まる訳では無い。
ぐずぐずと鼻をすする音が似合わない面々が揃った広間で、忍は乱暴に頭を掻いた。
違法本丸の対応は慣れているが、泣き止まない刀剣男士の相手などしたことが無い。
業務はいつでも、対審神者だったからだ。


「…泣きたいのはこっちだよ」


ため息とともにそう呟けば、彼らの嗚咽がひたりと止まる。
涙なんて一粒も流しそうにない表情がのうのうとそう告げたのだ。
まるで決壊したように小狐丸はまた泣き出した。


「申し訳ございませぬ、申し訳ございませぬ…。私があなたを指名したばっかりに、」


嗚咽混じりの声がそう告げると、忍はため息を一つ。
あの刀剣男士に泣かれてしまえば、こちらからとしては打つ手はない。
おっかなびっくりその背を撫でながら彼女は彼らの涙が止まるのを待つしかなかった。


「この仕事はしたくなかったよ、それは本当。でも、神様からのご指名なら受けないといけないし、政府ももうそのつもりでだから泣いたって仕方ないんだって…」


責めることも慰めることもしない、事実だけの言葉は彼らにどう届くのだろう。
小狐丸は目を丸くして、眉根を苦しげに寄せて、また玉のような涙を流す。
なにがきっかけで彼のお気に入りになったのか分からないが、それ以上にわからないのは敵対心があったように感じたほかの男士も泣いていることだ。
手当たり次第に背を撫で、頭を撫で、涙を拭い、声をかけていく。
一向に収まらない彼らの涙に、忍はげっそりと顔をやつれさせた。


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