抜き身に気を付けて

□#19
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時空を超える時はどんな理由があってもインカムをつけなくてはならない。
それは本来いるべき世界とを繋ぐ命綱の役割も果たすからだ。
だから使うつもりはなくてもゲートを抜ける間際に忍はそれをポケットに突っ込んだ。
つけたとして、その向こうには誰もないないのはわかっている。
量産刀の一つも持たずにゲートをくぐったその背中を、小狐丸が見つけた。
追いかけようとしたがとき既に遅く、ゲートは既に閉じている。


「待たぬか!!!」


門を叩き、声を荒らげる小狐丸に人が集まってくる。
焦った顔の彼に様子を聞いた石切丸は、その言葉に背筋を冷やした。
丸腰で敵陣へ、それは刀剣男士である彼らですら死に行くようなものだからだ。
それを女の、役人がやったとなると自殺と言われても仕方ない。


「私が皆の同意を得ずに名指ししたばかりに、また主を失うのか……」


前の主は確かに不貞を働いたが、それでも彼らの主君だった。
そして忍もまた、たった1日ではあるが傷を癒し、二足のわらじでなんとかやっていこうとしてくれた。
それを知っててもなお素直になれなかったのは、彼女が役人という特殊な立場にいたからだ。


「ぼく、いんかむとってきます!」


風のように駆け抜けていった今剣。
今唯一彼女と繋がるそれに、全員が耳を傾けた。
敵の唸り声と、術式を唱える忍の声。
彼女の鬱憤が怒鳴り声で聞こえると、彼らは果てしなく後悔した。


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