抜き身に気を付けて

□#16
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バタバタと本丸の中を走り回る音。
音の主は昨日審神者になった忍のもので、スーツ姿で右へ左へと朝の支度に走る。


「うるさいなぁ……」


目を擦り宛てがわれた部屋から顔を出す安定。
スーツに腕を通し、ゼリー飲料を咥える忍の姿に彼は眉根を寄せた。
自分の知っている審神者はこんなにも慌ただしく働いていたことなどない。


「お、安定!いいところに!!」


ジュッとゼリー飲料を飲みきって彼女は顔を出した彼に駆け寄る。
ポケットの中からくしゃくしゃの紙を出して、シワを伸ばして彼に渡す。
訝しむ彼にしっかり紙を持たせると、彼女は少しだけ重たい声で指示をした。


「今日、夜まで政府の仕事があるから、この紙通り動くように指示しておいて」
「っえーー。近侍は?」
「大倶利伽羅見つかんないのさぁ。時間ないんだ、頼んだよ!!」


そう言って本丸を出ていく忍。
砂利を踏み鳴らす音に、安定は紙を握ったまま見送ることすら出来なかった。
騒がしかった様子が去ったからか、部屋からゾロゾロと刀剣男士が出てくる。
そして忍の気配がないことを確認すると、各々自由に身支度を始めた。
厨に向かう者もいれば、のんびり厠に向かう者もいる。
誰も忍の動向を気にかけないのは信用と呼べるものが一つたりとも築かれていないからだろう。


「ご飯の時に言えばいいかぁ」


そう呟いて彼は紙を文教の上に置いた。


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