抜き身に気を付けて

□#15
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怪我をしたものは全て手入れ部屋へ突っ込まれ、各自自分の部屋へと戻った夜。
今までならば誰彼が呼ばれ、暗がりに響く声に嫌悪と安堵を抱えていた時間だというのに、今日は虫の鳴き声ばかりで静かだ。


「…こんなの、久しぶりだ」


ひっそりと部屋を抜け出した歌仙が各部屋を見て回りながらそう呟く。
いつからだったか、あの優しい主が酷い命令を下すようになった。
それが彼にとってどんな利益になるのか、そして政府の琴線に触れるかなんて知らずにただただそれに従う日々。
今思い返せば悪夢であった。
忍が来たときのことはあまり覚えていなく、ただ急に主の気配が消えたことに驚きと同時に安堵したのだ。


「ありゃ、寝ないの?」


暗がりからぬらりと現れた忍に歌仙の肩が跳ねる。
大きく見開かれた目に彼女は楽しそうにケラケラ笑い、風呂上がりの無防備な姿を晒す。
面白みのないロングTシャツを着ただけの格好に、歌仙は危うく叫びそうになった。


「なんて格好を…」


ぐっと押し留めた声で放たれたその言葉に忍はまた笑う。
彼女は自分の格好のことなどどうでもいいのだ。
むしろ歌仙の初々しい反応を楽しんでいる。


「夜くらいはラクな格好したいでしょ。ずーっとしっかりしてたら疲れるしさぁ」


おおよそ彼女が言っていい言葉には聞こえない。
しっかりだなんて昼間の彼女がしていただろうか。
ラクだなんて割と昼間の姿もそう見えた。
しかしそのチグハグな現実に、歌仙は項垂れるしかない。


「そう見えるようにしている、てことかい?」


その問いかけに忍はへらへらとした笑みを浮かべるばかりで的確な返事などしなかった。


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