抜き身に気を付けて

□#14
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部隊はその後すぐに敵軍と鉢合わせた。
戦い進んでいくが、やはり相手も中々のもので道半ばですでに刀装は溶けてしまった。
しかしそれでも進軍を続ければもちろん怪我を負うわけで、すぐに軽傷や中傷程度のものができる。
痛いのはなれたと思っていたが、存外そうでもなかったようだ。

【連絡ないけど、大丈夫?】

まるで見ていたかのようなタイミングでインカムから声が届く。
心配に打ちひしがれているわけではなさそうだが、それでも彼らにとっては久しい優しさだ。
前の審神者ではこうは行かなかった。


「山姥切と燭台切が中傷ってとこだよ」


事実だけを伝えると、少しの沈黙。
しかしすぐに忍は主命を出した。

【りょーかい。そしたら、すぐに撤退して。戻ってきたら重傷者から順に手入れ部屋に。溶けた刀装、あとでリストにして私に提出よろしく〜】

それだけ言ってまたブツリと切れた通信。
声を聞いていたのは加州だけだが、その表情に全員が彼からの指示に耳を傾けた。


「……撤退、だって」


張りのない加州の声に、全員がその言葉を聞き直した。
撤退なんてものは、そうそう言われることはない。
前の主はそれこそ重傷者が出るまでは進軍を止めない奴だった。
甘っちょろいのか怖がりなのか。
どちらにせよ、それが指示だ。
背くわけにも行かず、彼らは帰路につく。
見つけた資材を抱えて帰る道はいつもよりも少しだけ足取りが軽かった。
帰ってから本丸の異変に気を配る必要はない。
夜伽を命じられないように願う必要もない。
それは全員に心の余裕を持たせた。


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