メモ

□喜劇屋【新選組】
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目が覚めたのは頬に雨粒が当たったからだ。
けして、自分の意志ではない。
視界を占めるのはどんよりとした雨雲で、空気の匂いさえも違うこの場所にハッと笑いが込み上げた。


「まさか大佐のパンツを女性陣に送ったらどうなるか、なんて真理に聞いただけなのに。答えがこれか」


抹殺もいいところだ。
いや、消滅、なのだろうか。
どちらでも構わないといえば構わない。
自分の存在はなくなってしまったのだ。
体を濡らすほどまではいかないにしろ、確実に体を冷やす程度には降る雨は、ゆっくりとアンナの体を濡らしていった。

***

最近よく聞く話だ。
なに、土方の俳句がうまくなった、とわけではない。
豊玉発句集を見たってそれは歴然だ。
そうではなくて、奇天烈なことをする人がいるということだ。
指を鳴らして鳥や蝶を出すらしい。
壊れたものも、拍手一つで直すらしい。
是非とも、会ってみたい。
そう、考えていたのはこの屯所内に五万といる。
人数的には五人ではあるものの、確かにその存在はいる。
近藤勇、沖田総司、藤堂平助、原田左之助、永倉新八。
けれどこんなに幹部が逢いたくて逢いたくてと時代を先取りせんばかりに言っているのに、誰一人として逢った試しはない。
神出鬼没なのだ。
尻尾どころか髪のひと房さえもつかめない。
いや、髪が掴めるなら本体もつかめるのだが、それは言葉のあやというやつだ。
つまり結局のところ、最近の巡察は不逞浪士の見回りではなく、そんな奇っ怪な人間探しにシフトチェンジしてしまっているにも関わらず、成果は何一つないということだ。




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