メモ

□愛される子の作り方
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物言いが滑らかで、一欠片さえも悪意を感じさせない。
常に身だしなみを正し、年上を敬い年下を庇護する。
笑顔を絶やさず、聞き分けがいい。
人の顔色を伺うことにたけ、常に空気を読んで身を弁える。
そんなできた人間は天然でなんて存在しない。
わかりきったそんなことを、けれども人は強要するのだ。
作り上げて、本来を蔑ろにし、偽りで貼り固める。
まるで人形のような出来た人格はそうやって形成されていた。
ある人は、気味が悪いと言った。
ある人は、よく出来た子だと言った。
ある人は、まるで忍者のようだと言った。
ある人は、希にみるいい女だと言った。
けれどその言葉はどれも間違いに等しく、どれも正しい。
すべてを偽って違和感しかない自分は確かに気味が悪いし、相手をよく観察しているからこそ相手を不快にさせない対応ができる。
自分を常に殺しているからこそ忍者のように非情であり、相手に合わせているからこそ気配りのできる女だと見られる。
背中合わせのその言葉は、自分をがんじがらめにする鎖でもあったのだ。


「##NAME1##はいい子ね」


母の言葉が痛い。


「##NAME1##はできるよな?」


父の言葉が重い。


「##NAME1##さんに頼めば大丈夫だよね?」


他人の言葉にがんじがらめになる。
身動きも、ともすれば呼吸さえも苦しい。
そんな世界でひっそりと生きることがとてつもなく窮屈だった。
けれども、それ以外の生き方を知らない。


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