抜き身に気を付けて

□#10
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「言っておくけど、これでも私は政府側だよ。なにを基準に私を選んだのかは知らないけどさ、あんまり期待しないでね」


まるで彼らの希望を断ち切るかのように言った忍。
その目はどろりとヘドロを流し込んだように濁り、今までに見たことのない冷めた顔。
彼女を審神者にと推奨した小狐丸は自分の眼を恨んだ。
これでは前と変わらないではないか、そう思ってしまうほどに忍の印象は最悪だ。


「まあ、とりあえず役割分担はしとくね。今剣、秋田藤四郎は畑当番、へし切り長谷部、燭台切光忠は厩当番、石切丸と宗三左文字は手合わせ。遠征と出撃部隊は刀帳を見てから決めるから一時待機で」


すらすらと役割を与えていく忍。
彼らからの視線に怖じけずかないほどには肝は座っているようだ。
そして最後に、背を向けてから告げられた言葉に彼らは異論を唱えるしかなかった。


「近侍は大倶利伽羅、よろしく」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるのは、今だかつて自分達の元主が彼を指名したことがなかったからだ。
仕事をするなら長谷部をと、そう考えるのはわりとどこの本丸でも多いデフォルメだが大倶利伽羅を選ぶものは少ない。
なにせ二言目には馴れ合うつもりはないの彼だ。
だがそれをわかっていてもなお選んだ忍には、しっかりとした理由があった。


「騒がない人がいいの、大倶利伽羅が嫌だっていうなら鳴狐か太郎太刀にお願いするよ。そこは3人で相談して〜」


ひらひらと後ろ手を振って去っていく忍は、彼らの顔を一度だって確認しない。
向かう先は審神者に宛がわれる部屋なのは気付いているはずだ。
あとは誰が近侍になってくれるか待ちながら、きっと薄汚れているだろうそこを片付けるだけ。
意気込むように回した肩はごきっと年齢不相応の鈍い音をたてた。


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