抜き身に気を付けて

□#09
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自分が顕現した刀は総じて痛覚が共有される。
それはどの審神者も同じで、程度の差はあれどその事実に変わりはない。
忍は顕現するために自分の神気を注ぐ時、自分の痛覚すらも己のそれで刺激していた。
刀が砕けるその瞬間、骨が軋むような痛みや内蔵が抉られるような感覚を覚える。
しかしそれを払拭する術はなく、毎度のことながら痛みと戦っていた。
彼らが傷を負えばもちろん痛むこの関係は歪な運命共同体だ。


「顕現て失敗したら痛いんだよ。痛いのは嫌い。命なんて紙一切れより軽いんだから、苦しむことなんてアホらしい」


そう述べて宗三の嫌味を一蹴すれば、彼は目を見開いて忍に掴みかかった。
彼の性格上、そこまで乱暴なことをするのは珍しい。
だが忍は慌てたりわめいたりはしなかった。


「紙切れ一枚よりも軽い?命は一人に一つです。軽くなんてありません。それに、仲間を増やすのだって審神者の仕事でしょう?あなたが怠ければこちらだって迷惑です」


はっきりと包み隠すことなくそう不満を吐き出せば、忍はそんな宗三の手を自分のそれを重ねる。
そしてそこから、顕現するときと同じように神気を流し込んだ。
濁流のように激しく、滝のように壮大なその神気に宗三の目の前はチカチカと光を点滅させ、身体中が軋むように痛んだ。


「痛いでしょ?このまま行けば折れるよ。早く手を離したら?」


ここの本丸には忍の顕現した刀剣は一振りだっていない。
だから痛覚の共有はないが、その美しい顔が歪む様子を見ていれば辛さなんてものは手に取るようにわかる。
手を離した宗三と、それを守るように彼を囲む刀剣男士たち。
最初とは正反対の怒気やらが籠った瞳を見据えて、忍は一字一句を噛み締めるように告げる。


「報告書じゃたった2行。どこの誰が、なんの理由で死んだか。紙一枚を埋めつくしすらしないよ」


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