メモ

□ハーメルンの笛吹き娘
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104期の入隊式当日、 アルミンは奇妙な姿の人間を見つけた。
隊服をまとって入るが、そこから見えるべき肌には隙間なくぴっちりと包帯が巻かれているという不思議さ。
怪我をしている者に訓練など務まるまいと思っていたアルミンは少しばかり同情が滲んだ目でその人を見ていた。
訓練初日、ミカサは不思議な人間を見つけた。
隊服から見えるべき肌を包帯で覆い、しかし息をひとつも切らさずに走る人間。
まるで自分の容姿を闇に葬ったかのような徹底ぶりに彼女は驚きを隠せなかった。
食事を摂りに食堂へ入ったエレンは、不気味な人を見つけた。
隊服から覗くべき肌は包帯の下に隠され、唯一包帯に隠れていない唇は配給をゆっくりと食していた。
その薄桃の唇と真っ赤な舌を見た瞬間に走った戦慄に、彼は興味を隠しきれなかった。

***

ビアンカ=ハーメルンは104期の入隊式にいた。
その身を包帯で覆い隠し、忌まわしい左目にはその上から眼帯をした。
ミイラのような姿には誰もが目を引かれたが、しかし声をかけてきたものはいない。
隊列に並んでいた時さえも、誰一人声をかけるものはいなかったのだ。
そしてそんな未知とされた包帯の下が、明かされそうとしていた。
顔に伸びる手に、ビアンカは距離を置くように背を反らした。
しかし手を掻い潜ることはできず、触れた指先から脆く包帯が解けていく。
するりはらりと解けた包帯は砂の混じった土の上に降る。
そしてまるでそれに伴うように剥がれ落ちた眼帯もまた、土の上へと横たわった。
姿を現した本来のビアンカの顔。
透けるような白い肌と薄桃色の唇に誰もが息を呑んだ。
そして通った鼻筋と形のいい眉が凛々しさを示す。
長い睫毛が最後まで隠した瞳はまるで神が与えた褒美のようだった。
右目は薄雲がかかったようなシルバーグレー、左目はアメジストのような深い紫。
まるで作り物のような顔立ちに、彼らは声一つ、上げることができなかった。
そしてそれらをさらに際立たせたプラチナブロンドの髪がふわりと揺れた。


「余計なことしやがって。隠してた意味が無いだろうが」


姿に似合わずビアンカが発した言葉は随分と口汚い言葉だった。


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