抜き身に気を付けて

□#06
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門を潜った瞬間に視界に広がったのは確実に多すぎる桜吹雪。
視界全てが薄桃のそれに染まると、さすがの忍も驚きが隠せない。
不必要に前に進むのも憚られ、その場でそれが過ぎ去るのを待つ。
次第に薄くなっていく薄桃のカーテンに、ようやく本来あるべき本丸の姿が露になる。
やはり廃れ感があることは否めないが、そこに並んでいたのはこの本丸で顕現した刀剣男士たち。
全員がまるで忍を待っていたかのように立ち並んでいて、彼女は一瞬寒気すら感じた。
なにせ彼らは末席といえど神。
こうして並び、来訪を歓迎されるのは人間の身であればまずありえないことなのだ。


「お久しぶりです、主様」


にっこりと綺麗に微笑んだ小狐丸。
その笑みと彼らの壮大さに思わず言葉の発し方を忘れた忍は唇を中途半端に開けっぴろげた。


「なんだいその顔は、まったく雅じゃないな」


ツンとした態度の歌仙兼貞はそう言うが、全くもって人間の心臓に悪いことばかりするものだ。
ずらりと並ぶ彼らに冷や汗が流れ、喉はからからに乾く。
だがいつものようなゆるい様子でへらりと笑うと、忍はしっかりと一人一人の目を見つめた。
無傷なものはほとんどいないが、それでも腐った目をしていないのは幸いだ。


「ご指定された違法本丸解体(バラし)屋の忍です、これからどうぞよろしく」


他の本丸ではありえない幕引きを見せた第一四二八五七号本丸。
異例の本丸はこうして記録に名を残し始めた。


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