抜き身に気を付けて

□#05
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審神者には二種類ある。
一つは誰もがネットークという環境の上でできるゲーム上での立ち位置。
もう一つは本丸という時代の歪みに住み、自身が直接付喪神である刀剣男士たちと暮らしから共にする。
そこにある差は生まれた時代と、神気と呼ばれる付喪神を顕現する力だ。
だからどんなに力があっても時代が違えばその資格はなく、逆もまた然り。


「君が例えば双子で、二人でこの神気ならそれぞれを雇用するところですが…」


言い淀んだあの声も言葉も未だに耳に残っている。
それほどまでに忍にとってあの記憶は人生の分岐点だったのだ。
だがそんなすでに過ぎ去った分岐点が、今直線上に現れた。
驚きと戸惑いと、恐怖が忍にまとわりつく。


「さてまぁ、やっぱりここなわけだよねぇ」


ガラゴロとキャリーケースを引きずりながらやっとこさやって来た本丸はやはりあのときのブラック本丸だ。
あのときに比べてもやはり改善はされてはいない。
むしろ廃れ具合に拍車がかかっているくらいだ。


「仕事だからやるんだけどさ、やるけど…なんかさぁ」


文句をいうのは違法本丸解体と審神者の二足のわらじになってしまったためである。
世界観に合わないキャリーケースは重たげに、そんな忍の後を着いていく。
さてといつかの門の前についたとき、忍は風になびく張り紙を見つけた。
達筆な毛筆で書かれたそれ。
内容は政府の干渉を拒否する旨と、以前来た女を連れて来いとのこと。
これでようやく、なぜ自分が選ばれたのかはっきりわかった忍は、もう一度大きくため息をついた。
今まで何度も違法本丸を暴いてきたが、こんなことになったのは初めてのことだ。
にわかには信じられない現実に門を潜る前から頭痛を覚えるが、誰もそんなことには気付きもしなかった。


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