抜き身に気を付けて
□#01
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何故自分がこんな仕事を引き受ける役柄になったのかはわからない。
けれどそれでもいつのまにか忍はその役割を果たすことに違和感を持たなくなった。
「ここ、で会ってる…な」
目の前には寂れた門と黒いもやが立ち込める日本屋敷。
外観がすでにブラック本丸です、と語っているようだ。
門はがらんと開いているのにその向こう側に入ることは叶わない。
なにせまだそこには主がいて、審神者の席にふてぶてと腰かけているからだ。
「んま、お邪魔しますよ〜」
ゆるい口調で誰へとなしにそう声をかけ、忍はその見えない壁へと手で触れた。
バチバチと拒絶する感覚は痛いほどに手に伝わるがここで引いては彼女自身の仕事が出来ないのだ。
「あ、五虎退だ」
壁が消えた瞬間に現れたのは満身創痍の五虎退。
ぼろぼろの刃をブレながらも向けてくる彼に忍は忍同情せざる得なかった。
「て、敵ですか…っ」
震える声に胸が軋むように痛くなる。
そんなになぜ背負い込まなければならないのか。
そして根本であるブラック本丸が出来て、それに蝕まれた彼らという存在が気の毒でならないのだ。
「君らの主からしたら敵だろうね。けど、君たちを救えるよ」
そう残し五虎退を無視して本丸の中へと入っていく。
すでに荒れ放題な屋敷内に靴を脱ぐことはなかった。
埃を被り蜘蛛の巣を巡らせたここは人が住むべき環境でもない。
それを重々に見越した上での判断だが、どうやらそれでもあの人は目ざとくそれを許さなかった。
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