石楠花物語中学生時代

□中3時代(バージョン2)
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⚪同・男子トイレ
   個室に籠って泣く千里。そこへ、恐る恐る麻衣。

麻衣「失礼しまぁーす…」

   中へ入る。

麻衣「小口君、いる?」

   個室から泣き声が聞こえる。

麻衣「小口君?」
千里「僕には無理だ!!無理なんだよ!!」
麻衣「何いっとるんよ。大丈夫だに。ほれに…」
千里「だって僕は、臆病だし、プレッシャーにはとても弱い…緊張すぐしちゃう…。」
麻衣「でもあんたはこの間、あんなに度胸のあることをやったじゃない。最後に、ちゃんとカミングアウトしたあんたはとてもかっこよかったに。」
千里「源チサの時だって、僕はあんなたくさんの人前でおもらししちゃった…だから怖いんだよ…僕にはもう自信がないんだ。…又同じ過ちを…」
麻衣「小口君、考えすぎよ。あんたのほの考えすぎが、余計に不幸を呼んでしまうんよ!!」
千里「…」
麻衣「さ、へーほこから出てきて?教室へ戻りましょう。」

   千里、そっと出てくる。

麻衣「恐かったら、二人でやりましょう。いつも私がついてるで、あんたはモーマンタイン…だに。」

   いたずらっぽく笑う。

麻衣「♪大丈夫、大丈夫、あんたはモーマンタインっ!!てな。」

   千里の背中をポーンっと叩く。

麻衣「今日の放課後、私んちへおいで。」

   千里を支えてトイレを出ていく。


⚪高橋家・麻衣の部屋
   麻衣と千里。

麻衣「はい、まずとりあえずはお茶どうぞ。」
千里「ありがとう…」
麻衣「で?」
千里「で?」
麻衣「パフォーマンス大会のこんだだけど…」

   千里、肩を落として俯く。

麻衣「私と共にやるか?」
千里「き、君と!?何を?」
麻衣「ほれは?」

   あるパンフレットを見せる。

麻衣「これ。私がピアノ伴奏するでだで、あんたは又源チサとして出る。今度は踊り子として踊ってね。」
千里「又…源チサ?やだよぉもう僕女装なんて!!」
麻衣「これも、あんたに度胸をつけさせるためよ。な、よしっ。」

   立ち上がる

麻衣「これで決まりっ。日もあまりないに。練習だ!!練習!!」

   千里、不安そうに小さくため息。


   (しばらく)

麻衣「ところであんた、今年は受験だら?どこ希望しとるの?」
千里「うん…でも、僕の希望なんて叔母さんに蒙反対されてるから…」
麻衣「叔母さんに?お母さんは?」
千里「ママはとっても応援してくれているんだけど…」
麻衣「ほんなの、お母さんが応援してくれるんならほの道進めばいいじゃないの。」
千里「でもいま僕んちでは叔母さんが権力を握ってるようなもんだからさ…叔母さんの言うことは絶対…。逆らえないんだ…。」
麻衣「ほんな…で?あんたはどうしたいの?」
千里「僕?僕は…」

   恥ずかしそうに上目を向く。

千里「絶対に笑うなよ…?」
麻衣「笑わないわよ。笑うわけないわ。言ってみて…」
千里「京都…芸術高校…」
麻衣「京都芸術高校?」
千里「うん、京都にある全国的にも有名な名門校なんだ…。でも、僕みたいな赤点続きの人が到底試験なんて受けられっこないし。だって、そうだろ?どうせ行ったって負けにいくようなもんさ。でも、叔母さんが反対するのはそんなことじゃないんだ。ま、それも大いにあるけどさ…一番は…」

   悔しそうに

千里「僕がピアノをやることをとても嫌っているんだ。ピアノとバレエは早くやめちまいなっていつも言ってくる…」
麻衣「どいで?いいじゃないの!!」
千里「男らしくないからだって。叔母さんは、僕を本当に男らしいことをやる、男らしく育てたいらしいんだ。でも僕は…」
麻衣「いいに小口君、」

   励ますように

麻衣「あんたの人生だだもん、あんたのやりたいことをやりゃいいんよ。な。」
千里「麻衣ちゃん、でも…」
麻衣「あんたも自分の意思を言えるもっと強い男になりな。叔母さんに立ち向かって抗議しないとダメよ。あんたがしっかりと自分の意思を主張すりゃ、叔母さんだってきっと分かってくれるんじゃないかやぁ?」
千里「んー…」

⚪永延・フロアー 
   千里が女装をして躍り歌っている。伴奏は麻衣。

千里【それから僕は、何だかんだで結局再び、源チサとしての舞台をやることになり、毎晩永延のフロアーステージで練習をすることになりました。】

   『青いパゴダのサロンでは』

客「チサちゃんいいよぉ!!」
客「又戻ってくれてありがとな!!」
客「夜のこの時間だけはよぉ?小口千里君じゃなくて、どうか源チサとしていておくれ!!」

   客たち、大盛り上がり。千里も照れながら頬を赤らめて踊っている。麻衣も笑顔で千里を見つめながら伴奏をしている。


⚪諏訪中学校・体育館
   パフォーマンス大会当日。二年生全員が集まっている。麻衣と千里は隣同士。

千里「ふーっ、ふうっ、」

  緊張でどうにかなりそう。麻衣、宥めながら千里を落ち着かせる。

麻衣「大丈夫よ、小口君。あんたなら出来る。練習通りにやればいいのよ。」 
千里「でも…」
麻衣「間違ったってへっちゃら。私がおるに。」

   どんどんと過ぎていく。笑ったり、歓声をしたり、清聴して泣き出したりしている。

千里「ひぃーっ、次だ…次だっ…」
麻衣「落ち着いて、小口君深呼吸。落ち着いて…」

   麻衣、千里の背を擦る。

藤森先生「続きまして、二年一部…小口千里君と柳平麻衣さんのペアです。お願いします。」

   二人、ステージの方へ登っていく。

藤森先生「では、準備が整い次第始めていただきたいと思います。」

   ステージ裏で千里は女装、麻衣は男装に着替えている。

藤森先生「それではよろしいでしょうか?」
麻衣、千里「はいっ。」
藤森先生「では、お願いします。」

   二人、ステージに出る。麻衣はピアノにスタンバイ。千里はタンバリンをしゃらしゃらとならしながら登場。会場からどっと笑いが起きる。 

後藤「あいつをからかって言ったのに…」
小平「千里のやつ本当に女装してきやがった…」
眞澄「チーちゃん…」
真亜子「へぇー、あれが源チサか。可愛いじゃん。」
マコ「少しも男には見えないわ。本当に女の子そのものね…あれなら。」

   全員、顔を見合わせる。

5人「例え女子トイレだって堂々と入れちゃう…」

   一斉に吹き出してクスクス。

   千里、麻衣の伴奏で歌いながら舞出す。
   『青いパゴダのサロンでは』

⚪通学路
   麻衣と千里が並んで帰っている。

麻衣「でも小口君、今日は良かったに。あんた、溌剌堂々としとってかっこよかったに。」
千里「本当に?なら良かった…」
麻衣「ん!!これで少し自信ついた?」
千里「まぁ、ちょっとはね…でも、そのときはついたと思っても…」

   下を向いたままもじもじ。

千里「数週間、数ヵ月と日をおいちゃうとダメなんだ…又すぐに逆戻りさ…」

   ため息。

千里「どうしよう…僕、今年の九月がピアノの発表会なんだ…」
麻衣「まぁ、ほーなの?実は私も。あんたどこのピアノ教室?」
千里「僕はね…少し遠いけど…富士見の富里の、芳江先生のところへ行ってるの…」
麻衣「まぁ!!実は私も!!」

   千里、驚いて立ち止まる。

千里「それ、本当に!?」 
麻衣「えぇ!!小口君もそうだなんてビックリ!!でも、諏訪からなんてえらい遠いな…どいで?京都から来たばっかの頃は富士見の方に住んでいたとか?」
千里「いや、そうじゃないんだ。ママがこっちでも僕がピアノやりたいっていったら色々と探してくれて、見つけたのがそこだったんだ。お月謝安いのに、結構名門らしいから…」
麻衣「確かに!!」

   二人、笑いながら歩いている。


⚪岩波家・和室
   岩波、幸恵、健司。健司、座蒲団の上に正座をしている。岩波はテストの答案を持っている。

岩波「健司っ!!お前ってやつは…又もこんな点をとって!!岩波の次男として恥ずかしくないのかっ!!」
幸恵「そうよ!!もっとちゃんとお勉強しなさいっ!!やらないからこうなるのです。」
健司「俺だってちゃんとやってるよ!」
幸恵「ちゃんとやっているのなら、何でこんな点数になるのです!?あなたは、本当に岩波の息子として」
健司「別に恥ずかしくねぇーよ!!」
岩波「分かった…こうしよう…」

   立ち上がる。

岩波「健司、お前のために家庭教師を雇うことにする!!」
健司「か、家庭教師をっ!?」
幸恵「そうよ。いいでしょう…家政婦兼、家庭教師をやってくださるいい方がいらっしゃるらしいのよ。あなたたちも大きくなったから、母さんもそろそろ仕事に復帰したいと思ってる。だから母さんも丁度…」
健司「ならいいだろう、家政婦だけで!!」
幸恵「いいじゃないの。そんな方がいらっしゃるのなら一石二鳥だわ。いつまでも悟にあなたの勉強付き合わせるのも可哀想ですものね。」
岩波「では健司、これで決まりだ。意義はないな…解散。」
 
   二人、部屋を出ていく。

健司「お、おいっ、ちょっと待てよ!!俺家庭教師についての勉強なんて絶対に嫌だからなっ!!おいっ!!きんてんのかよぉ!!親父!!お袋っ!!」
幸恵「少し考えますっ!!嫌ならしっかりと勉強やりなさいっ。もしこの次でいい点が取れないようなら…おやつとお夕飯は抜きにします。そして、家庭教師もつけさせていただきますっ!!いいですね。」

   健司もむっつりとして立ち上がり、部屋を出る。出入り口には岩波悟。

健司「兄貴…盗み聞きかよ…?」
悟「タケ、お前はいつでも説教の種がつきないな。」
健司「ったく、怒らなくていいこんで怒られてんだぜ?俺は!!どいで!!」

   悟にテストの答案を見せる。

健司「国語85点、数学76点、理科89点、社会99点、英語90点の平均点439点であんなにお説教されなくちゃいけねぇーんだよ!!俺にはさっぱり意味わかんねぇ。」

   ツンッと鼻を鳴らして自分の部屋へと階段を登っていく。
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