石楠花物語小学校時代
□小5時代
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⚪同・男子トイレ
用を足す千里。回りには他、一、二年生がいる。男の子達、千里を不思議そうに眺める。千里、真っ赤になって目を反らす。
⚪同・教室
もう朝の会が始まっている。千里、恐る恐るそっと入ってくる。生徒たち、一斉に千里を見る。
河原先生「千里君、今日はよろしい。席につきなさい。」
千里「はい。」
しょんぼりと恥ずかしそうに席に着く。麻衣、小声。
麻衣「せんちゃん、おトイレ間に合って良かったな。」
千里「うん、何かごめんね。」
麻衣、涼しそうに微笑んで首を降る。
(チャイム)
二時間目が終わる。
千里がハンカチで手を拭きながら廊下から戻ってくる。
千里「今日は寒いからトイレが近くて困るよ。」
掛川「君も?実は僕も。そういえば君、」
小声。
掛川「マラソン最中におしっこ我慢できなくてもらしたって本当?」
千里、赤くなってギクリ
千里「だ、誰からそんなことを?てか、僕、おもらしはしていませんっ!!トイレ行きたくなったのは認めるけど…」
掛川「ん、小山だよ。何か一年生から聞いたらしいよ。」
タミ恵、鼻高々につんっとしている。麻衣、キッとタミ恵を睨み付ける。
タミ恵「まぁ怖いこと!!私が何かしたって言うの?」
そこに知晃、恵美子、田苗
知晃「あんたって本当に根性悪の性格悪!!」
恵美子「この性悪女!!どうしてそこまで意地悪なの?人を嫌がらせしておいて楽しい?」
田苗「傷つけて何が楽しいのよ?最低!!」
千里、泣き出す。
田苗「男の子泣かせてんじゃないわよ!!」
恵美子、知晃「そうよそうよ!!」
麻衣「流石、都会から来た一等地のお嬢様はお高く止まっていますこと。ご自分が何をしてもいいと思ってらっしゃるのね。」
タミ恵「何ですって?」
食って掛かろうとするが、ふんっと鼻をならして出ていってしまう。麻衣、千里を抱き寄せて慰める。
麻衣「あんなの気にせんでもいいでな、せんちゃん。へー泣かんで。あんなののために涙なんて流しちゃダメだに。」
千里「ふぇっ…ふぇーんっ…」
者繰り上げている。
千里「僕だって人間だ!!トイレ行きたくなるし、我慢もできなくなるときあるのは当たり前だろ?なのにみんなは何で笑うの?どうしてそれがいけないことなの?僕だって行きたくて行きたい訳じゃないっ!!」
知晃「私たちはそんなこと笑わないよ。」
恵美子「そうよ、あの根性悪で薄情で人情のないタミ恵ばあさんが一人でそうしてるだけ。」
田苗「笑うわけないじゃん。みんな同じ人間なんだもの、ね。」
千里「みんな…」
涙出うるんだ目でみんなを見つめる。
知晃「君の涙で潤んだ瞳って綺麗…とっても可愛いね。」
麻衣「ふんとぉーだ。」
千里もやっと涙を拭って弱々しく微笑む。
掛川「さぁ千里君、次の時間はいよいよテストだぞ。」
麻衣「ほれも5時間目までずっと…んで確か六時間目は自習よね。」
千里を思いっきりぽーんと叩く。
麻衣「千里君、頑張ろうな。」
千里「うんっ!!」
チャイムがなる。
麻衣「あ、いっけね、チャイムだ。確か休みなしの給食までぶっ続けよね。」
小刻みに駆け足。
麻衣「私ちょっとトイレ行ってくる。」
恵美子「あ、私も!」
田苗「私も!」
知晃「私もちょっと行ってこよーっと。」
麻衣「せんちゃん、君ももう一度済ませておいた方がいいんじゃない?」
女の子達走って出ていく。
掛川「そんな話してたら僕も又行きたくなっちゃった!千里君、僕と一緒にいこうよ。」
千里「うんつ、そうだよね、分かった!!」
掛川、千里も教室を飛び出ていく。
授業が始まると全員、シーンとなってテストをしている。千里、麻衣も真面目に鉛筆を動かして真剣な顔で解いている。
給食時間。班毎に給食を食べている。
掃除を挟み、皆で無言清掃をしている。
5時間目、再びテストを解いている。
帰りの会
河原先生「それでは、本日の帰りの会を始めます。本日は…先生からみなさんにお話があります。」
とても真剣に厳格な顔をする。クラス全体が重く、固い空気が流れる。
河原先生「無言清掃についてです。」
クラス中が息を飲んで顔がこわばる。
河原先生「本日私が見ていて思ったのはみなさん…」
満面の微笑み。
河原先生「無言清掃、大変よく頑張りましたね。それを誉めようと思っていました。」
クラスに和やかな空気が戻り、みんなで胸を撫で下ろして微笑み会う。
河原先生「では次にテストを返そうと思います。名前を呼ばれた子から出てきなさい、」
千里、諦めたように肩を落としてため息。
千里(どうせ今日も帰ったら又ママのお説教が待っているんだ…)
河原先生「小口千里君っ、」
千里、びくり
千里「ひぃっ、はいぃっ…」
思い足取りで前へと出ていく。
河原先生「千里君っ、君は…」
千里、しょんぼり
河原先生「おめでとう、よく頑張りましたね。私も目を疑いましたけど…」
にっこり
河原先生「全教科百点満点です。」
千里「え?」
クラス、ざわざわ
千里「本当に…ですか?」
河原先生「嘘だと思うのなら自分の目で確かめてご覧なさい。」
千里にテストを四枚返す。
河原先生「これからもこの調子で頑張りなさいね…」
千里、答案を見つめて目を見開き、泣き出しそうになっている。
⚪小口家・玄関
珠子が仁王立ちをして待ち構えている。
千里「ただいま…」
珠子「千里っ!!」
千里「ひぃーっ…」
珠子「今日、テストだったんですってね?」
千里「はい…」
珠子「早くお見せなさいっ!!」
手を差し出す。
千里「はい…」
しょんぼりとカバンから答案を取り出して珠子に渡す。珠子、鋭い表情で見つめるが、答案を見て、目を見開いて震え出す。
珠子「こ、こ、こ、ここここ…これは?せんちゃん…100点…」
千里「ご、ご、ごめんなさいっ!!」
後ろを向いてお尻を出す。
珠子「何やってるの…凄いわ…」
千里を強く抱き締める
珠子「よくやったわねせんちゃん!!偉いわ!!あなたもやれば出来るのよ。さてっ、今夜はお祝いしなくっちゃいけないわね!!パパにも知らせなくちゃ!せんちゃん何が食べたい?あなたの好きなもんなんでもいいのよ、作ってあげる!夕子叔母さんも洲子叔母さんも勿論パパもすごく喜ぶわ!!」
千里「ママ、大袈裟だよ!!」
珠子、躍り舞う。
珠子「こんな嬉しい日、何が大袈裟なことありますか!!」
ルンルンと
珠子「じゃあせんちゃん、ママと一緒にお買い物にいきましょう!!」
千里「うんっ!!」
しばらくご、珠子に手を引かれて千里もルンルンと出掛けていく。
その夜、小口にプレゼントを貰って抱き締めてもらったり、夕子、洲子からもお祝いして貰って、千里の嬉し涙笑いをしながらおご馳走を食べて微笑みながら話をしている。
夜はこうして更けていく。
⚪豊平小学校・体育館
それからしばらく後の三月の始め。6年生を送る会がある。麻衣と千里は、吹奏楽のお祝い演奏に加わって6年生を見送り出しているを
その更に暫く後には卒業式
⚪通学路
麻衣と千里。
麻衣「休み明けからは私達が六年生ね…送る側もこれで最後だ。」
千里「そうだね…そう考えるとなんだかちょっぴり寂しいや。」
麻衣「ほーね…」
千里「でも、小さい頃の夢、結局叶わなかったなぁ…」
麻衣「何?」
千里「僕ね、児童会長になりたかったんだ。」
麻衣「へぇー、格好いい。」
微笑む。
麻衣「でもまだ私達は始まったばかりですもの。小学校で出来なくても、中学や高校でやればいいに。」
千里「そうだね、こんな僕の性格ででも…そんな大役が勤まるのかな…出来るのかな?」
麻衣「自信もって、あんたならきっと…やろうと思えば何でも出来るに。諦めないで頑張って。夢は挑戦してみるものだに。な。」
千里「はいっ!!」
大きく微笑むと、麻衣の手をとって走り出す。
まだ桜の蕾すらもない、雪の沢山残る蓼科。寒い春の冬空が真っ青く広がっていた。