石楠花物語アフターストーリー

□夢のあとさき
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『石楠花物語・アフターストーリー』

⚪アパート・一室
   5年後…。柳平麻衣(24)、岩波健司(24)

健司「ごめんな麻衣、結局バタバタしちまって結婚も長引いちまったな…」
麻衣「いいえ、いいの。でも、遂に私達…」
健司「あぁ、明日日本に戻ってさ…色々と準備して、お前の引退公演と引退リサイタルが終わって落ち着いたら結婚式あげよう。」
麻衣「えぇっ!!でも、健司…あんたは?こっちで働きたいんじゃあ…」
健司「俺?俺はいいんだ…へー決めてある。」
麻衣「えー?」
健司「実はマダムコレットが援助してくれるって言ってさ、コレットも一緒に諏訪に行って、二人で工房をやることになったんだよ。麻衣、お前は?ふんとぉーに歌手、やめちまうのか?」
麻衣「えぇ、私はいいの…それより一つ問題があるのよ。」
健司「問題?」
麻衣「えぇ…適任の伴奏者が見つからないのよ…」
健司「伴奏者か…」

   ニヤリ
 
健司「いいやつがいるんじゃないの?」
麻衣「ん?」
健司「千里だよ、千里!!あいつだってへー大学出てるんだし…」

   麻衣、渋る。

健司「どーだ?」
麻衣「ダメよ、」
健司「どいで?」
麻衣「だって…」
健司「おいおい、千里だってお前だってへー子供じゃねぇーんだぜ?過去にどんな事があろうが、過去は過去、今は今。あいつだっていい思いでとして受け止めてるだろうさ。」 
麻衣「…。」
健司「な、とにかく一回千里に連絡とって会ってみようよ。俺だってあいつとは、今まで通りに仲のいい友としてこれからも付き合いたいんだ。」
麻衣「…分かったわ。」


   飛行機が旅立つ。

⚪国際空港
   日本。麻衣と健司がゲートから出てくる。外には小口千里(24)。

千里「…麻衣ちゃん…健司くん…」

   懐かしさに涙が込み上げそうになる。

麻衣「せんちゃんっ!!」

   麻衣、千里、お互いにかけよって抱き合う。

麻衣「あんた、見ない内に又大人っぽくなったわね。」
千里「君こそ…又一段と綺麗になったね。」

  二人、泣き笑い。

健司「よ、」
千里「健司君っ。」

   笑う。

千里「君達もう、結婚したんだよね。おめでとう…」
健司「ほれがまだしてねぇーんだよ。」
千里「そうか、してないんだね…って、えぇ?」

   目を丸くする。

千里「してないって…何で?…だって君達…」
麻衣「えぇ、の訳だっただけどさ…色々あって…」
健司「でも俺達、これで原村へ戻ってさ、一年後に又、麻衣の引退リサイタルや引退公演でヨーロッパ行くんだけど、ほれが終わって落ち着いたら結婚式あげようってことんなったんだ。」
千里「そうか…」
麻衣「せんちゃん、あんたは?今どうしとるの?」
健司「オーディション受けたり?ほれともへー夢へのステージ…踏み出したか?」
千里「あ…あぁ…」

   寂しそうに俯く。

千里「いいんだよ、あんなのもう…所詮十代の頃の夢だ…」
健司「どいこんだ?」
麻衣「ほいじゃあ今あんた、何やっとるの?大学はへー卒業しただら?」
千里「うん…大学は、去年卒業したよ…。それから、叔母さんに色々とうるさく言われるわ、色々で結局今僕は、茅野の市役所で働いている。」
健司「はぁー?何だよほれ?どいで、オーディションとかでチャンス掴まねぇーんだよ?お前の腕なら確実に…」
千里「無理だよ、ステージなんて、そんなの僕に出来っこないっ!!」

   葛藤に苦しんだように泣き出す。

千里「恐いんだ…勇気無いんだよ…。高校生までのトラウマが…恐いんだよ。僕もうあんな想いはしたくない…。」
麻衣「せんちゃん…でも、ふんとぉーはあんたは今でもピアニストになりたい夢、持っているのでしょ?」
千里「それはぁ…」
麻衣「だったら…丁度いいわ。私と共にやってみない?」
千里「え?」

   話を聞く。

千里「え、そんなの…そんなの僕には無理だよっ!!出来っこない!!」
麻衣「ほんなのやってみなくちゃ分からないわ。あんたには実力があるんですもの。」
健司「ほーだよ。自信持てよ、前に進む勇気を持たなくちゃいつまで経ってもお前は弱虫のままだぜ。何も変わらないんだぜ。ほれでもいいのか?」
千里「…。」
麻衣「考えておいてね…」

   三人、空港を出る。

⚪特急電車の中
   前景の三人。 

千里「でも僕嬉しいな…又二人に会えて。連絡ありがとね。」
麻衣「いえ、こちらこそ。あんたに会えて嬉しい…。」
千里「麻衣ちゃん、君は?引退ってことは歌手はやめちゃうの?それでいいの?」
麻衣「私はいいんよ。ほれより、私は結婚したら専業主婦になって家庭に入る…この方がずっと幸せ。私ね、岩波のお酒藏にも入ろうと思うの…」
健司「お、おい麻衣!!ほりゃ俺聞いてないぞ。どいこんだ?」
麻衣「どいこんも何も、継ぐ気がないあんたの代わりに私が女社長として継いで行くってこんよ。」
健司「お、お前は…」
千里「麻衣ちゃんが社長さんか、格好いい。君らしいや。」
麻衣「どーも。」

   健司、何とも言えぬ顔をする。

千里「でも僕、やってみようかな、」

   遠慮ぎみに健司と麻衣を見る。

千里「伴奏ピアニスト…君を見てると、僕も強く、一歩踏み出さなきゃって思うよ。」
麻衣「ふんとぉーに!!良かった、ありがとうせんちゃん!!宜しく、頑張ろうな!!」
千里「う。うん…こちらこそ。」

   健司、フッと微笑む。
⚪茅野駅・西口
   麻衣、千里、健司。

麻衣「わぁ、懐かしい…茅野の空気、変わってないわ…」
健司「ふんとぉー…気持ちいい。」
麻衣「せんちゃん、今お住まいは?」
千里「勿論、茅野だよ。大学の時は東京で独り暮らしだったけどさ、卒業して帰ってきたんだ。今も前と同じ家にママと住んでる。」
麻衣「あんたこそへー奥様はいらっしゃるんだらに?」
千里「まさかぁ!!」

   とんでもないとばかり。

千里「結婚なんてしてるわけないだろ!!奥様どころか、君と別れて以来彼女すらいないよ。」

   溜め息。

千里「婚活でもしようかな…街コンとか…」
健司「まだまださ、千里。男はまだ今が働き盛りなんだぜ。」
千里「そうかなぁ…」

   麻衣、少し目を伏せる。千里もちらりと麻衣を見る。

千里「でも君はもう結婚すんだろ?」
健司「まぁほーだけどさ、」

   千里を励ます。

健司「ほー拗ねんなって!!絶対いい女現れるって。」

   千里、くねくねしながら。

千里「まぁいいよ。とりあえずは、二人とも疲れたろ?僕ん家来いよ。」

   車へ案内。

健司「お、これ新車か?」
麻衣「まさか、せんちゃんの車?」
千里「そ、そう。今年の春に免許取れたばっかりでさ、そん時に長年の貯金で買っちゃった。どーぞ、乗って。」
麻衣「わぁー、お邪魔しまぁーす。」
健司「お邪魔しまぁーす。」
千里「はーい。」

   三人、乗り込む。千里の運転で走り出す。麻衣、運転する千里を見つめて頬を赤くする。

健司「ん?」
麻衣「ん?」

   健司、麻衣を見る。

健司「どーした?」
麻衣「別に、何も。」

⚪小口家
   三人、車から降りる。

千里「さぁ、着いたよ。入れよ。」
麻衣、健司「お邪魔します。」

   ドアを開ける。

千里「今は、忠子が北部中学に上がってさ、頼子は僕らと同じ茅野中央高校行ってる。千兄ちゃんと同じとこ行くぅ!!何て言ってさ。二人とも学校さ。夕子叔母さんは、もう僕んちを出て、旦那さんの寧々叔父さんと、僕の従兄弟のケイと共に、城南に住んでる。2年前に京都から移住してきた。ママは今、パートに行ってていない。でね、」

   もじもじ。

千里「実は僕んち、もう一人家族が増えたんだ。」
麻衣「まぁ、誰?」
千里「僕が大学に入った年に弟が生まれたの…小口信助ってんだけど…」

   顔が曇る。

千里「僕のパパは、10年前に死んじゃってるし…一体誰の子何だろうって…僕不安で…素直に信助と仲良くできないんだ。勿論、信助が嫌いな訳じゃないよ。とっても可愛いんだ…でも、」
健司「誰かと再婚したわけでも?」
千里「ないよ!!それにママは浮気するような人でもない。…と言うことになるとさ…考えられるのは…」

   蒼白になる。

健司「まさかお前…」

   千里、ゆっくり頷く。

健司「お前、母ちゃんとそんな…」
千里「まさかっ!!疚しいことは何もしてないさ、当たり前だろ!!でも、でも」

   震えだす。

千里「ママといつも一緒にいる男と言えば、僕だけなんだ…。ママは僕の事うんと可愛がってくれるし…僕もママは好き。でも、だからと言ってそんな感情は抱いたことはないし、何もしちゃいない!!」
健司「千里、ほりゃいくらなんでも考えすぎだろ。」
千里「顔も何処と無く僕に似てるんだ。血液型だって…ママはO型、僕はA型…信助は…A型なんだ。」

   頭を抱えてしゃがみこむ。

千里「どーしよう!!もし最悪な結果だったらどうしよう、ねぇねぇ!!」

   健司に助けを求める。

千里「信助の父親が僕なんて事になったら僕は一体どーすればいいんだぁ!!」

   麻衣、千里を立たす。

麻衣「せんちゃん、ひとまず落ち着いて!!な、な、あんたの部屋にいこう。」

   麻衣、すっかり気を滅入っている千里を部屋に連れ込む。
 
⚪同・千里の部屋
   健司、麻衣、千里をベッドに座らす。

麻衣「ちょっと休んでて、私がお茶入れてくるわ。せんちゃん、台所借りるわよ。健司、せんちゃんをお願い。」

   麻衣、出ていく。麻衣、台所でお茶を入れている。健司、震えて泣き出す千里を慰める。


麻衣「お待たせ、せんちゃんは?」
健司「サンキュー麻衣、大分落ち着いたよ。」
千里「ありがとう…」
麻衣「兎に角せんちゃん、一旦ほの事は忘れましょう。まだ、信助ちゃんも小さいんでしょうから、今はお兄ちゃんとして仲良く、可愛がってあげて。」
千里「うん…そうだね、そうするよ。」

   お茶を啜る。

千里「久しぶりの君の味…美味しい。」

   麻衣、健司、顔を見合わせて微笑む。

千里「じゃあ、君達の話…聞かせてくれないかな?」
健司「俺達の…」
麻衣「話?」
千里「そう。ハンガリーに行ってからこれまでの事とか。」
健司「ほーだなぁ…」
 
   三人、話に花を咲かせて盛り上がっている。

⚪酒・IWANAMI
   麻衣、研修を受けている。丸山健一(32)、小池富貴恵(61)、雨宮正(26)、櫻木朗(27)、黒田誠(41)がいる。

丸山「ほーん、君が坊っちゃんの嫁かい?」
雨宮「こんな可愛いのが、酒屋に嫁いでくるだなんてねぇ、」
櫻木「羨ましい限りだ、俺が貰いてぇくらいだよ。」
黒田「んだんだ、でも坊っちゃんもいい女見つけたなぁ…」
櫻木「何処で捕まえられたんだ?」
麻衣「捕まえられたんだ?って…私は健司とは幼稚園からの幼馴染みなんです!!」 
全員「ほー。」
黒田「そうかそうか!!でも麻衣ちゃん、君が後を継いで社長をやるって、本気かい?」
麻衣「えぇ、勿論本気ですわ。ほの為にこうして修行に入っているんです。」
櫻木「大したもんだ。この美人さと行動力が坊っちゃんを落としたのかねぇ?」

   富貴恵、つんっとして麻衣に悪態をつく。

富貴恵「ふんっ、嫁だかなんだか知らねぇーがいい気になるんじゃないよっ!!この仕事はお前が思うほど甘くはないんだ。これからはびしばししごくからね覚悟を押し。」

   麻衣も少し皮肉っぽく。

麻衣「はいっ、分かりました。盛りを過ぎたオールドマダム。」

   富貴恵、鼻を鳴らして行ってしまう。男たち、ポカーンとして麻衣を見つめる。
   『私の恋のチェスゲームは』

⚪茅野市役所・窓口
   千里、サパサパと業務をこなしている。赤沼収蔵(56)が千里の元へやって来る。

赤沼「小口、」
千里「はいっ、何でしょう部長、」
赤沼「君は本当によく働いてくれるよ。まだ入社2年目だに感心だ。」
千里「あ、ありがとうございます!」
赤沼「君みたいなのにはやめて欲しくないものだ。出世するぞ。ハハハハハッ!!!」
千里「どうも、」  

   千里も寂しそうに笑う。

千里(やめて欲しくはない…か。)
赤沼「どうだ小口、」

   声を潜める。

赤沼「今夜、」

   ジェスチャー

赤沼「行かんかね?」
千里「へ?」

⚪同・男便所
   赤沼、千里。

赤沼「どうだね、小口?」
千里「又、女の子のいっぱいいるエッチなお店ですか?」

   笑う。

千里「だったら私は遠慮します。」
赤沼「小口ぃ、私の顔を見るなりそりゃないだろう?私だってそんな店ばかりじゃない。まともなところだっていくさ。」
千里「例えば?」
赤沼「よーし分かった。そんなに信用できんなら、俺が今夜そこへ連れてってやる。」
千里「分かりました、お付き合いします。」

⚪マダムコレットの店・工房
   コレット(53)と健司、お針をしている。

コレット「Takeshi, mi van ott a hang?」
健司「Igen, én is hamarosan.」
コレット「Jó volt, folytattuk ilyen hangon. Apropó ...」
健司「Mi az?」

   そこへエリゼッタ(21)、カロリーネ(25)が入ってくる。

健司(かっわいいっ!!)
エリゼッタ「Anya、」
カロリーネ「Visszamentem most。」
健司「え、え、お、お母様っ?」
コレット「Ó, az utat. Én haza.。」

   健司、動揺。

健司「Ki az? Milyen anya ... Nem úgy, Madame ...」
コレット「Ó, tudom, ha Takeshi chan volt az első alkalom? Ja igaz. Saját lánya Caroline és Elisetta ... Üdv.」

   カロリーネ、エリゼッタ、頭を下げる。
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