石楠花物語高校生時代

□高3時代
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OP『私は小粋は平成娘』

石楠花物語、第3部。

⚪茅野中央高校・教室
   生徒たちが席についている。チャイムがなっている。厳格な顔をした育田勝(35)が入ってくる。

育田「さぁ、諸君。今日から新学期だ。今年は諸君にとって、高校生活最後の年となる。故、気を引き締めて学業に励むように。おれが、今年も諸君を受け持つ育田勝だ。宜しく。」
 
   クラス中を見回す

育田「早速ホームルームを始めようと思うが、その前に…今年は我がクラスに転校生が一人入ることとなった。」
   
   クラス、沸く。

育田「静粛に。では、小口、入ってこい。」
   
   小口千里(18)が、緊張ぎみに固くなって入ってくる。

千里「京都から参りました、小口千里です。皆さん、一年間宜しくお願い致します。」
育田「お。では小口、あの空いている席に座れ。癖っ毛で目が大きい女子の隣の席だ。胸に柳平という名札をつけている。」
小口「はい。」
   
   千里、指定された席に座る。麻衣、チラリと千里を見て微笑む。千里は少し驚いたように頬を染めて照れ笑い。



⚪同・廊下
   休み時間。麻衣、千里がジュースを飲みながら窓辺に立っている。
麻衣「あら、転校生ってあんただっただ?何、京都の音楽院辞めて結局こんなとこ来ただ?音楽の専門とか行きゃ良かっただに。」

千里「いや、そんな贅沢は言えないよ。ここで充分さ。それにほら、ここに来たからこうして君と再会できた。」
麻衣「ほっか。」

   微笑む

千里「君こそ、あんな名門高校行っていたのにどうして?」
麻衣「同じ理由よ…。ほら色々とあったら。」
千里「そっか…。…ごめんよ、君が大変なときに僕、何も支えになってあげられなかった…」
麻衣「何いってんのよ。せんちゃんは自分も辛いのに、私の事を慰めてくれたらに。あんたのほの気持ちだけで充分励まされたに。」
千里「へへっ。」
   

   チャイムがなる。

千里「あ、チャイムだ。入らなくっちゃね。」
麻衣「えぇ。」
   
   二人、教室へと小走りで入っていく。

⚪同・女子トイレ
   麻衣、伊藤すみれ(18)、佐藤加奈江(18)、城ヶ崎みさ(18)、片倉キリ(18)が個室を出て手を洗っている。帰りの支度をしている。

加奈江「でもさ、なんかまいぴうってば、あの小口君って子と随分仲良かったね。」
キリ「知り合いとか?」
麻衣「えぇ、MMCで一緒になったりしたし小学生の頃から何かと縁あるし、何だかんだで顔馴染みなんよ。」
すみれ「あーあーMMC、覚えてる覚えてる!!あの、めっちゃくちゃピアノとバレエが上手かったのに」
みさ「退場の時に、女性もののトゥシューズ履いてたせいで紐がほどけてこけちゃった子だ!!」
麻衣「ほ!!」

   トイレの外。帰りの支度をした千里がうろうろとしているが、ふと女子トイレに近付く。女子たちがドアを開けて話をしながら出てくる。千里、ドアにノックアウトされて倒れてしまう。

千里「いったぁーっ!!」
麻衣「大丈夫…って、せんちゃんじゃないの!!」
みさ「何やってんのあんた、こんなとこで?」
千里「それ…はぁ…(躊躇うようにモジモジと女子のように上目遣い)ですね、えーっと。」
加奈江「何よ!!」
キリ「まさかあんた、女子トイレに入ろうとしてたとか!?」
女子たち「うっそぉー!!いやらしい。」
千里「ち、ち、ち、違うよ!!そんなんじゃない!」
みさ「じゃあどんなんなのよ!!」
千里「あ…の、その…」
   
   千里、あっ!!と目を固く閉じる。女子たち、千里に釘付けになる。
千里、暫く方針状態だがその内に静かに泣き出す。麻衣、黙ってトイレに戻り、モップとバケツをもって戻ってくる。

キリ「まいぴう…。」
   
   麻衣、黙って汚れた床を吹き出す。

麻衣「嫌ね、なんだ。御手洗い探しとったんなら、ほー言ってくれりゃあ良かったに。」
千里「…。」
麻衣「男子トイレはこの上の階。階段上がってすぐだに。ほれ、ここは私がやっとくで、あんたは早く医務室行きな。風邪ひいちまうに。」
千里「あり…がとう。(者繰り上げながら足早に去る)」
   
   女子たち、千里の後ろ姿を見つめている。

みさ「あの子、トイレ行きたかったのか…」
加奈江「てか、あんな可愛い男の子が…何か萌えーっ!!」
すみれ「これっ、奈江!!」
加奈江「ごめんなしゃーい。」
   
   麻衣、黙って床を擦っている。女子たち、麻衣を見ると軈て手伝い出す。

⚪茅野駅・西口
   駅前スーパーの前のベンチで千里が一人、焼きそばカレーパンをかじっている。そこへ麻衣。
麻衣(M)「あ、せんちゃんだ。」
   走って近付く。
麻衣「おーい!!せんちゃんーー!!」
   
   千里、麻衣に気づくとびくりとしてベンチをすくっと立ち、スーパーの中に入ろうとする。

麻衣「待ってや、どいで逃げるんよ!!」
千里「…」
麻衣「さっきのこん?気にしとる?」
   
   ベンチに座り、千里も無理矢理座らせる。

麻衣「大丈夫よ、田舎の学校だだもん。みんないいやつだで、誰もあんたを笑ったりいじめたりするやつはおらん。だで、安心しな。もし、ほんなやつがいたとしたら…
   
   空手の真似

麻衣「この柳平麻衣が、警官の娘の名に懸けて、ぼっこぼこのぎったぎたにしてやるんだで。」
   
   千里、やっと弱々しく笑う。

千里「麻衣ちゃん…ありがとう。」
麻衣「ん!!(いたずらっぽく笑って座り直す。)ほいやぁ、あんたは豊平だだっけ?…バス?」
千里「いや、今日はママが迎えに。君は?」
麻衣「私は花蒔だだもん、勿論バス!!」
   
   一台のバスが入る。

千里「これ?」
麻衣「いえ、後三十分近く待たんと…。」
千里「三十分!?…いいよ、ならさ。」


⚪車のなか
小口珠子(40)の運転。全景の二人が乗っている。

珠子「まぁ、せんちゃん、早速お友達?」
千里「うん、クラスメイトの柳平麻衣ちゃん。」
珠子「まぁ、柳平麻衣ちゃんって…あの、豊平小と諏訪中の柳平麻衣ちゃん?改めて、此れからもこんな息子だけど宜しくね。」
麻衣「えぇ、おばさんはーるかぶりです。こちらこそ。宜しくお願い致します。」


   軈て

麻衣「あ、御座石神社!!ここでいいです、下ろしてくださいな。」
珠子「えぇ?麻衣ちゃんの家は今、この近くなの?」
千里「嘘ばっかり、まだずっと上だろうに!!」
麻衣「でも、せんちゃんのいえとは遠回りになっちまうらに…。」
千里「そんなのいいよ!!じゃあ君、まさかここから歩くつもりでいるの…」
麻衣「ほいこん。」
千里「バカはやめてくれよ、家まで送る。ね、ママ。」
珠子「えぇ、勿論。家は何処?」
麻衣「湖東の花蒔です。花蒔団地の近く。」
珠子「分かったわ。せんちゃん、スマホ!!」
千里「了解です!!(手慣れた手付きで打ち出す)」
声「音声案内を開始致します。」(当時、実際には多分スマホはありません。)
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