石楠花物語高校生時代
□高1時代
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OP『磨子の湖の歌』
⚪白樺高原
健司、麻衣、磨子が湖岸にいる。健司がバイオリンを弾き、麻衣と磨子がフォークダンスを踊っている。
終わると三人、笑って拍手
磨子「麻衣ちゃん、楽しかったわね。」
麻衣「えぇ、もう一曲…如何?」
磨子「お、いいねぇ。」
健司「ほの前にさ、二人とも。」
二人「ん?」
健司「何か、俺ワクワクするなと思って。」
麻衣「何?MMC?」
健司「ほ。ほいだって人生初のコンクールだもん。緊張しちゃうよ。」
磨子「しかも日本最大級の大型新人戦ですものね。」
健司「ほんなのにさ、麻衣のやつはすげぇーよな。大した女だぜ。」
磨子「そうそう。」
麻衣「へ?何が?」
健司「声楽だよ。ほいだってお前、まだ去年の6月に声楽習い始めたばかりなんだろ?ほれなんに…一時審査に通っちまうだなんて。何て女だ!天才としか言いようがないよ。」
麻衣「嫌ね、ほんなこんないに。やめて、健司。」
磨子「本当の事よ。だから麻衣ちゃん、そんなに腰を低くしなくてもいいわ。堂々としてて。」
麻衣「磨子ちゃん…」
磨子「さ、もう一曲踊る?健司、伴奏して。」
健司「了解ですっ!!」
健司、バイオリンを弾きながらステップを踏んで湖岸をくるくると踊りだし、麻衣と磨子は組んで踊っている。誰もいない早春の湖岸
⚪柳平家
柳平麻衣(16)が柳平糸織(16)のピアノ伴奏でコンコーネの練習曲を歌っている。
声「麻ー衣!!麻ー衣!!」
柳平紡(16)が、小粋に階段を下ってきて、勢いよく居間に飛び込んでくる。居間にはグランドピアノが一台と、炬燵が置かれているが和風の板張りの部屋。近くに小さな台所がある。天井には裸の豆電球が弱々しくついている。
糸織・麻衣「つむ!!」
紡は二着の衣装を抱えている。
紡「ちょっとこれ見てみ、出来たに!!明日の衣装。」
二人「わぁーーー!!」
紡「これが、バレエでこっちがオペラとピアノ演奏…な。」
麻衣、目を輝かせて紡に飛び付く。
麻衣「わぁー、凄いつむ!!ありがとうな。大変だっつらに!!」
紡「だらだら、良かった。気に入ってくれて。」
糸織「ならさ、早速ほれ着て歌ってみろよ。リハーサルだと思って。な、つむ。」
紡「お、ほれナイスアイディア!!」
麻衣「えーー?」
二人「いいで、いいで、」
二人、麻衣を今の外へ連れ出す。
紡「着替えたら又、戻ってきな。」
麻衣「はーいはい。」
(しばらく後)
麻衣、恥じらいながらドレスを着て入ってくる。中世の貴族女性のような派手な衣装。
麻衣「…どう…かやぁ…」
糸織「麻衣…わぁを…」
紡「麻衣、凄くいいに!!良かった、このデザインにして。」
麻衣「でも派手すぎるわ。私の歌のレベルにそぐわない。」
糸織「ほんなことないけどさ、ほーはいったってつむ、麻衣はまだ声楽初めて一年もたってねぇーんだぜ。」
紡「うっさいしお!!ほいじゃああんたはまぐれで麻衣が合格したとでも言いたいだぁ?」
糸織「いや、ほんなんじゃ…」
紡「いいに、ほれ麻衣!!疑り深いしおのためにあんたの実力見せてやりな!」
麻衣「えー、ふんとぉーにやるだぁー!?」
紡「しお、伴奏スタンバイ!!」
糸織「スィースィースビト!!」
『オフェリー花の歌』
二人、うっとりと聞き入る。麻衣、まるでプロになったかのように歌っている。
そこへ、一本の電話。
糸織「(ピアノをやめる)…ったく、誰だよいいとこなのにぃ。」
紡「いいで、私出る。(電話に出る)はい、柳平にございますが。…あ、うん、うん、おるに。ちょっと待ってな。」
糸織「誰?」
紡「麻衣、磨子から電話だに。」
麻衣「磨子ちゃんから?」
麻衣、受話器を変わる。
麻衣「はい、」
磨子「あ、麻衣ちゃん?」
麻衣「磨子ちゃん、どーゆー?」
磨子「明日の事、今いい?」
麻衣「えぇ、勿論。…うん、うん、うん、分かった。7時に茅野駅な。了解です。え、花束?ほんなのいらんに!!」
紡、糸織、顔を見合わせて微笑む。
麻衣、軈て電話をきって戻ってくる。
紡「磨子、何だって?」
麻衣「あ、明日の事。色々と打ち合わせ。」
糸織「ふーん。」
麻衣「兎に角、明日は早いに!!だで私へー寝る。」
紡「はいよ。」
麻衣、欠伸をしながら部屋を出る。糸織も出ようとするが紡が捕まえる。
紡「麻衣の為だに。あんたはもう少し特訓せよ。」
糸織「(眠そうに)スィースィースビトー…」
糸織、伴奏の練習を始める。麻衣は部屋で熟睡中。
(翌朝)
糸織、紡と出掛ける準備の麻衣が玄関にいる。
麻衣「ほいじゃあな、私は先に行くで。」
紡「ん、気を付けな。」
糸織「僕らも後から行くで。」
麻衣「ありがとう、宜しくなして。」
麻衣、家を出ていく。
⚪茅野駅・西口モンエイト口
岩波健司(16)、田中磨子(16)、そこへ息を切らしながら麻衣が走ってくる。
麻衣「ごめんごめん、遅くなった。」
健司「おっせーよ!!」
磨子「麻衣ちゃん、おはよ。いよいよね。」
麻衣「えぇ。」
健司「ま、とりあえず…ホーム行こう。」
三人、モンエイト口を入っていく。
⚪電車の中
ほぼ満席。三人、立っている。
健司「ほれにしても大した女だよな。よくも始めて一年でこのMMCに出れるな。俺、テープ審査の時点で落ちるかと思ったぜ。」
麻衣「ほんなの、私もだに。」
磨子「本番が楽しみね」
麻衣「ま、ほりゃダメ元よ。きっと声楽の殆どが音大以上の方だと思うし、審査員も誰も、16歳の子供なんて相手にしないわ。」
磨子「でもね、麻衣ちゃんなら分かるにしても、あんたまで出るとはね…健司。」
健司「な、何だよ磨子ほの言い方!!」
磨子「や、流石はお坊ちゃんだな、と思って…。」
健司、赤くなる。
麻衣「ほーね。バイオリンにピアノ。お坊ちゃんの代名詞!!」
磨子「でも流石にバレエはやっていないのね。」
健司、吹き出して噎せ返る。
磨子「ちょっと大丈夫?(健司の背を擦る)」
麻衣「ほーね。でもあんたのバレエなんて想像できないし…ちょっとイメージ湧かない。」
健司「お前らなぁ!!」
電車は走っていく。
⚪松本市文化劇場・エントランス
受付の人で賑わっている。全景の三人。
磨子「んじゃ、頑張ってね。私は開場まであのホワイエでジュース飲んだりしてる。」
健司「ん。ほいじゃあ麻衣、お前は声楽と器楽とバレエの受付だろ。早くしろよ。」
麻衣「えぇ。健司は?受付終わったら伴奏合わせとかあるだ?」
健司「勿論、これから八時から九時までバイオリンで、九時からピアノの自己練習さ。お前もだろ、」
二人、受付を済ませて其々に別れる。
⚪二階・廊下
麻衣、一人でキョロキョロしながら歩いている。
麻衣「まずはバレエ・パドドゥの合わせね。相手はどんな方かしら?てか…多分部屋はこの辺だと思うだだけど…」
一つの部屋からピアノが聞こえてくる。
麻衣「あ!!(M)これは、私が踊る“海賊”の奴隷のパドドゥね。…ということは…」
麻衣、躍りながらドアを開けて中に入る。
⚪練習室
フレデリコ・ヴァレリア(22)がピアノ伴奏をしながら、少し驚いた顔で麻衣を見る。麻衣、躍りながらフレデリコに会釈。フレデリコは続けてと合図。部屋には相手役の小口千里(16)がいて、やはり驚きながら麻衣を見ているが、麻衣、微笑んで千里の手をとって踊る。
(終わる)
フレデリコ、ピアノから立ち上がって笑いながら拍手
麻衣「(照れながら)ごめんなさい、私ったらつい…」
フレデリコ「いや…いいさ、ありがとう。君が柳平麻衣さんかい?」
麻衣「えぇ。あなたは伴奏してくださる…」
フレデリコ「フレデリコ・ヴァレリアです。今日は宜しくね。今の踊りなら本番はなんの心配もないね。」
千里「…。(困ったようにもじもじ)」
フレデリコ「と、一人困ったようにしてるのがいるぞ…」
千里、びくりとして神経質のような顔でフレデリコを見上げる。
フレデリコ「彼は小口千里君。君とペアで踊る。」
麻衣「せんちゃん!!何よ、あんたもここに出るだなんて…しかも、ペアになれるだなんて凄いっ!!」
千里「麻衣ちゃん…」
紅くなる
千里「僕もだよ…宜しく…まさか君と一緒になれるだなんて…」
麻衣「ふふっ、宜しくなして。」
フレデリコ「あれ?君達は…まさかの知り合いか?」
麻衣「えぇ、私達、幼馴染みなの。な、せんちゃん!」
千里「うう…うんっ。」
フレデリコ、笑う。
フレデリコ「そうなんだ。でも彼ね、バレエの技術はとてもいいんだ。でもね…(苦笑い)」
麻衣「でも?(千里に目をやる)」
千里、心ここに非ずでもじもじ。
麻衣「…?」
⚪別の練習室
健司がバイオリンを弾き、伴奏者のマルセラ・チフスが合わせている。
(演奏が終わる)
マルセラ「岩波君、あなたおいくつ?」
健司「16…ですけど。」
マルセラ「16歳!?その年でこの曲が弾きこなせるだなんて、あなた天才よ!!これならあなた、本番で自信持って出来るわ。」
健司「器楽の部ですから、楽器類全般が出るんですよね。」
マルセラ「そ…そうよ。」
健司「(ふっと笑う)んなら、俺で驚いてちゃまだまだ早いぜチフスさん。俺なんか下の下です。俺よりもっと凄いやつが今日いるんですよ…俺と同い年でね、正に天才としか言い様のない凄いやつなんだぜ。」
マルセラ「あら、そうなの。(M)なんかこの子、ちょっと生意気ね。」
(九時)
健司、麻衣、それぞれの部屋でピアノの練習をしている。ある一つの部屋から次場抜けてうまい、プロのような演奏が聞こえてくる。
(10時15分前)
麻衣、千里、健司、それぞれの部屋で演奏をやめて時計を見る。
三人「もうこんな時間か。」
三人、行動をし始める。