石楠花物語中学生時代

□中3時代(バージョン1)
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⚪岩波家・和室
   幸恵、岩波、そしてシュンとなる健司。

岩波「健司っ!!」  

   腕を組んで睨む。

岩波「岩波の次男たるべきもんがなんだ!!父さんは恥ずかしいぞ!!」
幸恵「そうよ健司、どうしてこんなことになるの?」
健司「だって…」
岩波「だってもすってもないっ。全くお前ってもんは!!それでも高校生になる男か!!」
健司「ほいだって!」
岩波「父さんは、お前がどうしてもと聞かないからお前の希望する高校に入れてやったんだぞ。もしこれで、試験に合格できなかったら許さんっ!!その時はへー勘当だ!!勘当!!」
幸恵「ちょっと父さん、それは言い過ぎよ。」
岩波「いんや、お前みたいなのは岩波の息子ではないっ!!」

   健司、悔し涙

岩波「何だ、その涙は…」
健司「だって…じゃあどーしろって言うんだよ?俺だって人間だぜ?人間なんだものトイレ行きたくなるのは当たり前だろうに!!」
岩波「私の言っているのはだな…」
健司「でも、試験受ける前はお袋も親父も、“試験中にトイレには立つな”“試験の5分前には席にいろ。一分でも遅れるな”って言っただろう!!俺はほれをちゃんと守ったんだよ。守った結果が…」
幸恵「もらしちゃったのは?いつなの?」 
健司「…二時間目…」
岩波「健司っ!!」
健司「ほいだって!」

   泣き出す。

健司「入場はギリギリで、トイレ行ってる暇がなかったんだよ!!で、次の休みはトイレが混んでて待っているうちに五分前…結局行けるときないじゃん…」
岩波「どうして行きで遅れるんだ?」
健司「仕方ないだろ?俺のせいじゃねぇーよ。バスの遅れ。」

   そこへ悟

悟「おい、お袋に親父、あまりタケを苛めるなよ。こいつだってしたくてしたわけじゃないんだし…今一番その事でこいつ傷付いてると思うんだよ。」

   健司を慰める。

悟「タケ、気にするな。大丈夫だでな。誰もにあるこんなんだで、恥ずかしがることないし遠慮することもないんだ。試験中でも、立っていいんだよ…それに、」

   幸恵を見る。

悟「僕はこの春から医大生になるんだ。お袋はい医者だろうに!医者がそんな、体に悪いことさせていいのかよ?」

   ふんっと鼻を鳴らす。健司、者繰り上げて悟を見上げる。

健司「兄貴…」

   悟、健司に微笑みかける。

悟「ほれ、へーいいだろ。タケ、行くぞ。」

   手を引いて立たせる。

悟「全く仕方の無いやつだなぁお前もぉ…」

   者繰り上げている健司を支えながら部屋から連れ出す。


⚪小口家・奥間
   いつものお説教部屋。千里、夕子、珠子。険悪な雰囲気。千里、固くなってビクビクと二人を見ている。

夕子「千里…」

   静かに

夕子「今度は何処で?」
千里「…」
夕子「京都だろう…」
千里「…はい…」
夕子「千里っ!!!」
千里「ごめんなさいっ、ごめんなさい!!」
夕子「全くお前って子は…昨年から一体どーしちまったんだい?どっか幾度に小便もらして…オムツは?」
千里「忘れてた…てか、」

   真っ赤になる。

千里「そんなの出来るかっ!!」
夕子「だったらその、おもらしぐせお治しよ。全く…」

   鼻を鳴らす。

夕子「私ゃ情けないよ…」
珠子「夕子、やめなさいよ…せんちゃん可哀想よ…」
夕子「姉さんは黙ってな。これであんた、」

   千里を睨む

夕子「不合格なら、二次は音楽系は受けさせてやんないからね。」

   千里、泣き出す。

夕子「泣いたってダメだよ。さぁ、次はお前の番だ…何でこうなったのか?理由をお話し。」
千里「それは…」

   涙を飲む。

夕子「安心しな、もうお前への説教は澄んだ。何聞いたって怒らないよ。」

   千里、者繰り上げている。

千里「試験中…試験中なの。」
珠子「まぁ…」
千里「試験中にね…」

   泣きながら話し出す。

夕子「ふーん…で、筆記は?試験はきちんと出来たんだろうねぇ?勉強の方は?」
千里「叔母さんは、その心配しかできないの?やったよ、やりましたよ。僕なりに精一杯…出来たと思う…」
 
   落ち着く。

珠子「せんちゃん…」

   優しく肩を抱く。

珠子「もうしてしまったことは仕方がないわ、大丈夫よ。あなただけじゃない…試験会場なんてみんな、誰でもが緊張してる場所よ。せんちゃんも緊張しちゃったのよね…どうしても我慢できなくなっちゃったのよね…よしよし…」

   千里を抱いて慰める。

珠子「さぁせんちゃん、もう泣かないでね。今日は頑張ったあなたへのご褒美にスペシャルメニュー、ママ作ったのよ。みんなせんちゃんの大好きなもの。ご飯にしましょうね、さ、お勝手いきましょう。」

   千里の肩を抱いて慰めながら部屋を出ていく。夕子もふフット笑って出る。

夕子(姉さんも、千里には甘くて困ったもんだ…千里もいつまでも泣き虫坊主で…)

   大声で

夕子「頼子に忠子、ご飯だよ。おりておいで。」
頼子と忠子の声「はーい。」

   二人も降りてきて席につき、家族五人が食卓を囲む。

五人「いただきまぁーす!!」
千里「いただきます…」

   やっと弱々しく微笑んで、オレンジジュースを少しずつ飲んで涙ながらに笑う。

珠子「さぁ、まだまだ沢山あるわよ、」
夕子「みんなどんどんお食べ。」
珠子「せんちゃん、今日はあなたが主役なのですから食べなさい。まだまだお代わりもあるからね。せんちゃんの為に一杯お肉、買っておいたわ。」
千里「やったぁママ…ありがとう。」

   すき焼きをつつき出す。

珠子「せんちゃんは卵二個ね。」
千里「はーいっ。」

   次第に話し声や笑い声も広がる。


⚪白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣、磨子、リータ、健司

麻衣「ってこんで、私見事…若葉、合格致しました!!」
磨子「ふんとぉーに?」
リータ「マジ?」
健司「すげーじゃん!俺絶対落ちて二次受けるかと思ったぜ。」
麻衣「ほんなん私もよ。みんなは?」
リータ「私は…何処にも行かない。いつ帰るか分からないような留学生だからね。」
磨子「私は…見事…落ちました…。」
麻衣「え?」
健司「落ちたって…」
磨子「麻衣ちゃん…ごめん、言い出しっぺの私が。」
麻衣「でもほんな…磨子ちゃんが落ちちゃうなんて…嘘だら?あんなに勉強もできて、行きたがってただに。」
磨子「ごめんな、ふんとぉーにごめんっ、」

   麻衣をちらりと見る。

磨子「怒ってる?」
麻衣「まさか、誰が怒るのよ!!ほれより…」

   目を潤ます

麻衣「磨子ちゃんが可哀想で…」
磨子「麻衣ちゃん…」
リータ「で?」

   健司を見る。

リータ「あんたは?」
健司「俺?俺は…合格、受かったよ。」

   ばつが悪そうにもじもじ

健司「行きたくない高校に受かっちまった…」
麻衣「何よ?諏訪実はあんたが散々行きたいっつって希望してたらに!!」
健司「や、ほーじゃなくてさ…」 

   顔は真っ赤。

健司「実は試験中に…俺、おもらししちゃったんだ…トイレ我慢できなくなっちゃって…」
麻衣、磨子、リータ「はーっ!!?」

   三人、笑いをこらえているが吹き出す。

健司「おいっ、何で笑うんだよっ!!」
麻衣「ほりゃだって、ばかねあんた。どいでトイレ済ませんのよ。」
磨子「ター坊や、おしっこは我慢ができなくなる前にちゃんと行くのよ!」
健司「煩いっ!!」
リータ「確かに、」

   ニヤニヤ

リータ「そこは磨子の言う通りですぜ、兄さん」
健司「煩いっ!!」



麻衣「あ、健司?」

   思い付いたように鞄をがさごそ

麻衣「二月に色々とバタバタしてていけんかったけどさ…」

   健司に小包を渡す。

健司「な、な、何だよこれ?」 
麻衣「私からの…遅ればせましての…バレンタインデーだに。…ハッピーバレンタインデー、スィニョール…。」
健司「サンキュ。」

   照れ臭そうに微笑む。

健司「開けて…いいか?」
麻衣「勿論よ、」

   リータ、磨子、ニヤニヤしてそっと健司を囃し立てる。健司、開け出す。

健司「うおっ!!」

   目を輝かせる。

健司「チョコレートケーキだ!!うまそ。これ、何処の?」

   麻衣、得意気に。

麻衣「何処だと思う?」
健司「菓子店・アウクスブルクか?ほれとも、パリーヌか?」
麻衣「ほ?私が作ったのよ。」
健司「ふーん、お前がか…って」

   目を見開く

健司「お前がぁ?」

   切れているケーキの人切れを手で取って食べる。

健司「うっま!!最高だよ麻衣!!お前こんなの作れるんだな。すげーぇ。」

   次々と食べて完食。女子たち唖然。

健司「ふーっ、旨かった…なぁ、磨子とリータ、」

   キョトンと悪戯っぽく。

健司「お前らからは、何もねぇーのかよ?」
リータ「はぁ?何いってんのあんたって。ずーずーしーの。義理でもないね。」
磨子「私も、大体好きでもない普通のただの友達に過ぎないあんたにあげる必要もないわ。」
健司「はぁ、何だとぉ磨子!!いくらなんでもほりゃ言い過ぎだろうに!!」
磨子「あら?何かお気に障った?これはごめんあそばせ。」
リータ「こりゃどーも、失礼。」

   健司、フット笑う。

健司(俺やっぱり…こいつの事だけが好き…なんだかんだ言っても優しい麻衣だもん…気の利く麻衣だもん…)

   うっとりと赤くなる。


⚪小口家・千里の部屋
   千里、書類を持った手が震え、俯き加減で泣いている。そこへ珠子

珠子「せんちゃん、お茶よ。」
千里「…。」
珠子「せんちゃん?どうしたの?…泣いてるの…」
千里「ママ…ママ…」

   珠子に泣きつく

珠子「まぁまぁせんちゃん、一体どうしたって言うの?」
千里「僕、僕、僕…ふぇーんーっ!!!」

   声を出して泣く。


⚪同・台所
   小口家家族、全員が集まっている。

夕子「千里、おめでとう…良かったねぇ。」

   グラスを掲げる。

夕子「これから、今年からだね、頑張るんだよ。では、改めて…小口千里の難関校合格に、かんぱーいっ!!」
全員「かんぱーいっ!!」
千里「みんなありがとう…本当にありがとう…」
珠子「でもせんちゃん、まだ次はMMCがあるんです。気を抜いてはいけませんよ。」
千里「はいっ、」 

   嬉し涙

夕子「ほれ又泣く。お前は男だろうに、へー泣くんじゃないよ。」
千里「分かってるよぉ…分かってるけど涙が…ふっ、ふっ…」
頼子「千兄ちゃん、泣いちゃダメですよ、よしよしよし」
忠子「千兄ちゃんは泣き虫にございます。」

   五人、笑う。


   食べながら

千里「でも、ママ…」

   恥ずかしそうにもじもじ。

千里「僕とっても心配なんだ…又、MMCのステージでトイレが我慢できなくなっちゃったらどうしようって…」

   震え出す

千里「僕、やっぱり…コンクール辞退しようかな…僕には無理なんだよ…僕みたいなあがり症…慣れっこないさ…」
夕子「千里、何を言うんだい?やる前から諦めるんじゃないよ。あんたらしく、堂々としてりゃいいんだ。もらしたからってなんだい?一回や二回くらい、自信持ちなよ。」
千里「…叔母さん?」
夕子「そうさ、もしどーしても嫌で心配だって言うんなら、恥ずかしいかもしれないけど、今度こそオムツして行きなよ。」
千里「オ…ムツ…」

   ポカーンとして真っ赤な顔で夕子を見ている。二人の妹と珠子、微笑みながらクスクス。


⚪柳平家・麻衣の部屋
   麻衣、一人のみ。縁側に腰かけてホットココアを飲んでぽわーんと月を眺めている。

麻衣「まだ雪があるな…流石茅野よね…」

   一口飲む。

麻衣「夢みたい…私がまさか、若葉に合格できるだなんて…」

   微笑む。

麻衣「磨子ちゃん…残念、あなたとは一緒の高校にはなれなかったけど…私達、これからもいつでも遊ぼうね。ずっと、いつでも…私達はお友達だでね。これからの高校生活、楽しみね…頑張ろうな…。」

   すべて飲み干す。  

麻衣「ん、と…ほの前に、まだもうひとつ残されていたビッグイベントMMCがあったんだっけかやぁ。まだまだ気も抜けないな。」

   立ち上がる。

紅葉の声「麻衣さーん、ピアノと歌、バレエの練習確りやっておきなさいねぇ。」
柳平の声「麻衣、勉強の予習も始めるのだよ。」 
麻衣「はーいはいっ、」

   部屋に戻って勉強用の卓袱台についてノートを広げる。

あすかの声「麻衣姉、遊んでぇ、」
と子の声「麻衣姉、ちょっと勉強教えて欲しいところがあるんだけど、」
麻衣「はーいはいっ、んもぉっ。」

   ノートをもって部屋を出ようとする。

糸織の声「オーイ麻衣、」
麻衣「今度は何だねっ!!」

   少々かなりイラついている。

紡「健司君から電話だに。」

   麻衣、ころっと気分も変わってすごく満面の笑顔になる。

麻衣「はーいっ!!!」

   ルンルンと部屋を飛び出ていく。 


麻衣の声「はいもしもし、代わりました、麻衣だに。」
麻衣以外の登場人物全員「げんきんなやつ。」  

   『中学時代、完。おしまい』



 

 



 



   


   
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