【ミックスCP】

□鉄壁の愛
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恋は盲目とはよく言ったもので、一度恋と言う名の沼に足を踏み入れると、目に映る全ての光景が今までとは全く違って見える。
もう少し噛み砕いて言えば、客観的な現実に対して盲目状態になり、美化された主観的な現実が視界に虚構を築き上げるという表現が相応しいだろう。

「茂庭さん、今日何したいです?ゲーセン行きますか?うちでゲームしますか?」

二口は1つ年上で既に引退した茂庭と街を歩きながら、愛してますオーラ全開で問いかけた。
時刻はまだ9時でデートをするには少し早いのかもしれないが、今日が祝日で尚且つ部活が休みとなれば、浮き足立つのも仕方がない。
ちなみに、至って平凡な容姿である茂庭は、爽やかなイケメンの部類に入るであろう二口と付き合うことに、まだ慣れていなかった。
もちろん、二口の目には茂庭がものすごく可愛い恋人として映っている。

「はは、どっちにしてもゲームだな?」
「イヤですか?じゃあ、ダベります?どっか店、入りますか?」
「うーん……俺は公園でのんびりしたい気分かな。ゲームもしたいけど息抜きもしたい」
「息抜きって何ですか!?俺といるとストレスですか!?」
「違う違う、そうじゃないって。二口、ちょっと落ち着こうよ?」

そんなことを言われても、はいそうですかと落ち着けるはずがない。
前回のデートから1週間も空いてしまっているのだから、充実した1日にしたいと必死になってしまう。

「……じゃあ、公園で何するか考えるのでいいですか?」
「うん、そうしようか」

2人が公園に足を踏み入れると、意外なことに先客が2人いた。
近所の子供達の姿はなく、遠目から見てもかなり背の高い男がもう一人の男にベンチの上で膝枕をしてやっている。

「茂庭さん、あれ、ホモですかね?」

ホモという言葉を耳にするなり、茂庭はこっそり硬直する。
付き合うならば女子だと思い込んでいただけに、二口から告白された時は本当に困った。
いつもの悪戯でからかわれているのかもしれないと、何度もその真意を確認したが、二口の方は女子に寄せる想いと同じ気持ちを茂庭に対して抱いていた。
だが茂庭にはまだ覚悟がなく、ちょっとした言葉一つで鼓動が速まってしまうのだった。





一方、朝早くから最寄りの街を移動し、この公園に足を踏み入れていた及川は、膝の上で寝息を立てる影山を襲いたい衝動に駆られている。
昨夜散々ベッドの上でイチャついていたのだが、無防備な寝顔を見るているとどうしてもおあずけを食らわされている気分になってしまう。

「もう……起きないと及川さん、また飛雄のこと食べちゃいそうなんだけど?」

ボソボソと呟いても、相手の耳には届かない。
所在無げに滑らかな黒髪をさすっていると、不意に目の前に2人の男が立ちはだかり、及川は誰だとばかりに睨み付けた。

「あ!青葉城西の及川!?」

二口はまるで忌まわしいものでも見たかのように及川を指差し、声高に叫んだ。

「ちょっと静かにしてよ!飛雄が起きちゃうでしょ!?」
「とびお……?んげ、烏野の変人セッターだ!なんで青城の主将が、烏野のセッター連れてここにいんの!?」
「だからうるさいってば!えーと、確かキミ、伊達工の『崩された鉄壁』の子だよね!?」
「『崩された鉄壁』って何すか!?」
「だってホントのことじゃーん?烏野に負けたじゃーん?」

同族嫌悪という四字熟語が、及川と二口の脳内に浮かび上がる。
コイツは性格が悪い、そして他人の話に耳を貸さない、最悪ではないかと本能で察知している。
更に2人とも自分はこういう人間ではないと思い込んでいるあたり、悪質極まりない。

「ちょ、二口、静かにしてあげよう?影山君、起きちゃうからさ?」
「えー、茂庭さん、烏野の変人セッターの名前、覚えてるんすかぁ?」
「変人なんて言わないの」
「そうだよ!飛雄は変人じゃなくて、恋人なの!いくら漢字が似てるからってさぁ、頭の中で『変』と『恋』の区別くらいつけられないモンなの?」

そこはかとなくカチンと来る。
青城の主将と二口がこうして対面するのは初めてで、初対面の相手に向かって馬鹿だと言われているようなものなのだから、それも致し方のないことだった。
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