【短編】及川徹×影山飛雄

□及川さんのフォトアルバム
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「岩ちゃーん!」

とある月曜日、放課後になるなり及川が教室へと入り込んで来た。
いつもなら岩泉の方から帰ろうと誘うのに、珍しいこともあるものだ。

「おう、帰ろーぜ」

心の中でそんなことを考えつつも、敢えて突っ込まずに鞄を手にして立ち上がる。
だがよくよく及川の顔を見てみると、どことなく締まりのない表情をしている。
多少緩んでいてもイケメンであることに変わりはないのだが、色々な事情を知っている身としては、何となく不吉な予感がするのを禁じ得ない。

「実はね、今日烏野バレー部も休みなんだって!」
「へえ」
「でね、ちょっと大通りのファミレスに飛雄を呼びつけたんだけど、一緒しない?」
「デートの邪魔は趣味じゃねーんだけど?」
「邪魔じゃないよ!今日の岩ちゃんには、すっごく大事な使命があるんだから!」

どうやら不吉な予感は的中したと断言してよさそうだ。
できることなら静かに帰宅したいところだが、こんな顔をしている時の及川の押しの強さは尋常ではない。
それに使命があると口にしたからには、何かさせるつもりに違いない。
たとえそれが影山絡みだったとしても、突っぱねれば臍を曲げることは必須であり、逃げられそうにないと、心の中で項垂れた。

「わーったよ……ちなみに、俺の使命って何だ?」
「それはね……」

内緒話のようにボソボソと紡がれる言葉を聞き、岩泉は意味が分からないとばかりに幼馴染の顔をまじまじと見つめる。

「つまり、お前の合図に合わせて、影山の写真を撮ればいいってことか?」
「そーゆーこと!」
「何企んでんだよ?」
「それは飛雄と合流してからのお楽しみってね!」



そんなこんなで学校を出て、大通りのファミレスへと向かう。
部活のない日の帰り道はまだ闇に閉ざされておらず、夕陽に照らされた道を歩くことに違和感を覚えるほどだ。
それでも週に1度の休息日は、青城バレー部にとって癒しの日であることは確かで、皆がそれぞれに自分の時間を満喫している。
岩泉とて及川に何かを請われない限り、おとなしく家に帰ってのんびり過ごすことにしている。

「烏野が部活休みって、珍しいな?」
「今日は特別みたいだよ。ずっと合宿とか強化練習とかで疲れてるから、コーチが休みを言い渡したとかそうでないとか……」
「どっちだよ?」
「飛雄がデートをオッケーしてくれたから、忘れちゃったよ」

幸せそうで何よりだと苦笑を洩らした。
今のところは及川が猛アタックを仕掛けているようだが、頑なに拒否してきた影山が応じる姿勢を見せているのだから、随分な進歩だと思う。
もっとも、影山が心から嬉しくて呼び出しに応じているのか、脅迫じみた言葉でもって付き合わされているのかは、与り知らないことではある。

浮き足立った及川と共に約束のファミレス内へと足を踏み入れると、影山の方が先に到着して、奥まった席に突っ伏していた。

「お待たせー……って、もしかして寝てんのかな?」

及川が顔を覗き込むと、影山はすっかり寝入ってしまっている。

「はぁ、普通さ、デートの相手待ちしてる時、寝るってあり得ないと思わない?」
「俺に聞くなよ、経験ねーんだし」
「経験なくても、コレ常識!飛雄、起きなよ!」

ゆさゆさと肩を揺さぶると、影山はゆっくりと目を開け、こちらを見上げてくる。

「あ、岩泉さん、チーッス」
「おう」
「ちょっと、なんで岩ちゃんにだけ挨拶してんの?」
「久しぶりに会ったんで」
「じゃ、俺にはチューでもしてくれんの?」
「まさか」
「速攻で返さなくたっていいじゃん!岩ちゃんは何でも知ってるんだし、別にチューくらいしたって……うぐっ!」

恥ずかしいことを喚き立てる及川の口に、ピンポイントでおしぼりが投げ入れられる。

「影山、ナイスコントロール」

しばらく会わないうちに及川への免疫が強化されたのか、たじろぐ岩泉とは正反対に冷静に口の中へとおしぼりを投入せしめている。
いつもバレーボールばかりに頼っている岩泉は、こんな黙らせ方もあるのかと、心のメモにしっかりと書き足した。
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