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□リップクリーム
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鏡でチェックしながら
ぽってりとした唇に濃い目の口紅をのせる。

色っぽいな、なんて見とれていると
鏡越しに目が合った。

「なに?」

「別に」

私はわざとらしくスマホに視線を落として
見てませんアピールをする。

「さや姉も口紅ぬる?」

「いらん」

「たまには真っ赤な口紅もいいよ」

いらんって言うてるやろ。

左手に口紅、右手に筆をもって
接近してくる。

じーっと私をみると、小さく笑いだす。

「なんやねん」

「さや姉唇ガサガサ」

「別にええやろ」

そういえばお手入れしていなかったな、と
自分の唇を触る。

確かにガサガサだ。

「必要なのは口紅じゃなくてリップやな」

バッグをぐちゃぐちゃにかき混ぜている。

いや、ぐちゃぐちゃなバッグを
かき混ぜてんのか?

何が出てくるか怖いな。

「あった」

「期限切れのお菓子でも出てきたか?」

「ちゃうわ。どんなイメージやねん」

リップを探してくれたんだろう。

使用できそうなものかは置いといて。
言ったら怒りそうやから言わへんけど。

「リップ。
 この前新しいリップ買ってん」

「へぇ」

「いい匂いするやつ」

可愛らしいパッケージには
苺の香り、と書いてある。

「まだ開けてへんし
 さや姉にあげる」

「山田が欲しくて買ったんやろ」

「また買うからええよ」

「いうて別にそこまで
 リップ欲してないけどな」

「なによ。
 一言ありがとうでいいやん」

ぷくっと膨らむ頬に思わず口元がゆるむ。

お礼を言ってリップクリームを受け取る。

「なあなあ付けてみて」

「今か?」

「今付けるためにあげたんやし」

「別にええけど」

ほのかな苺の香りがする。
女の子っぽい、山田に似合いそうだなと思う。

「いい匂いするやろ?」

「まあ、そう書いてあるしな」

山田にじっと見られながら
リップクリームを唇にぬる。

どういう状況やねん。

「なんかさや姉の唇おいしそうやな」

「は?」

ドキっとした。

「苺の香りするやん」

「ああ」

「やっぱりいい匂いやな」

まあ深い意味がないことは分かってますけど。

それでも山田の発言にうるさくなった心臓は収まる気配がない。

「山田」

「なに?」

「リップ、ありがとうな」

「うんっ」

山田がくしゃっと笑う。

また少し、心臓がうるさくなった。

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