顔を借りてる少年と

□5ろ
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夕飯係



ここは忍たま長屋の台所。
小さいながらもかまどまでついていて、一通りの食べ物を作る道具が揃っている。
その中で文句を言いつつ鍋を管理しているのは竹谷だ。
不破は野菜を切っており、鉢屋はくのいちのユキちゃんの顔に変装してお米を炊いている。
そう彼ら3人は本日の夕飯を作る係なのだった。

「くそーっ。空きっ腹にこの匂い。誘惑されそうだけど・・・くぅっ、腹へったー!」
「まあまあ。ハチ、仕方がないよ。だって今日は僕たちが夕食当番なんだから」
「けどよー」

一定のリズムを刻みながら包丁が野菜を刻む。鍋からはもうもうと湯気が上がり沸騰したことを知らせていた。
切られた野菜をどんどんと鍋に入れながら、竹谷は文句を口にする。
その様子に苦笑いしつつも、不破は野菜を切る手を止めることはしなかった。
なにせ1クラス分の夕食作りである。
食べ盛りの年齢に加えて普段から激しい運動のある授業が続いたのだ。
当然腹はへるし疲れている。
しかし自分たちが作らなければ食べる物がないので文句を言うより手を動かした方が建設的といえた。

「なんだ、ハチは文句ばっかりだな。何か言う前に手を動かせ、手を」
「あー?分かっちゃいるんだけどよ〜。腹がへってて、ついな」
「ふんっ、このアホが。さっさと味噌をとかせ」
「へいへい。分かりましたよ、三郎さま」

鉢屋にじろりと睨まれて竹谷は苦笑いをする。文句を言いつつも味噌を溶かしこんでいく手つきに抜かりはなかった。
辺りに味噌のいい香りが漂い、その作業の横で不破は干物を用意し始めた。

「っていうより、その顔はやめてよね、三郎」
「ちぇーっ。分かったよ、雷蔵」
「あとはひと煮立ちすれば完成だな。香の物は何があったっけか?」
「ああ、確か葉ものの塩漬けがその壺にあったと思うよ」
「おっけ。これか」
「じゃあ、これならいいか?」
「まあ、いいよ」
「うっしゃ!これでなんとか準備出来たな」

パンパンと手を叩いた竹谷に不破も鉢屋も頷きかえす。
鉢屋の顔は不破の顔に変わっていた。
しかしそのことにもはやツッコミが入るのは滅多にない。
目の前に食べ物があるのに食べれないというものが、それを指摘するのを億劫にさせていた。
空きっ腹を抱えての食事の準備は、いくら5年生になったからといっても精神的に大変な作業なのである。

「おい、ハチ。配膳の準備は出来たか?」
「ばっちりだ」
「雷蔵、魚は?」
「うん、平気。ご飯とお味噌汁は?」
「万事オーケーだ」
「じゃ、完成だね」
「ああ」
「おう」

そんな風に話す3人の前にはほかほかと湯気の立った夕食が一クラス分出来上がっている。
その匂いにつられたのか、食堂ががやがやし始めた。

「うしっ、野郎共!!飯が食いたいかー?」
「「おー!!」」
「腹はへってるかー?」
「「おー!!」」
「よーし!持ってけ、コノヤロー!!」
「「わぁ〜!!」」

竹谷の音頭にノリノリで答えるろ組のメンバーたち。
腹がへってはなんとやら。不破と鉢屋が渡す夕食を怒濤の勢いで受けとるのだった。


end

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