ドレッドヘアーの男の子

□源田と鬼道5
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波紋



それはまるで水面に触れた一枚の葉のように一瞬でそこにあるものを変える力を持っていて。
偶然と必然のどちらも選べずにいた俺は、その狭間でたゆたう水面のようにたえず揺れ動くのである。


* * *


今の時期的に、この地で桜の次に有名な睡蓮ですらまだ蕾すらつけていない頃。
そこには観光客が詰めかけた後の気だるさが、まだそこかしこに残っている。
そんな寂れた観光地に源田と鬼道はやって来ていた。
そんな中で中学生の二人組はかなり目立つ。
さらにはこんな田舎では、滅多にお目にかからないような高級車に乗って来たのだからそれはなおさらのことだった。
しかし幸か不幸か注目されることに馴れている二人は、別になんとも思わずに散策をしているのであった。

「静かなところだな、ここは」
「まあな。もともと人気の無いところだし、今はシーズンをはずしているからな」
「こんなところに来る物好きはいないって?」
「まあ、否定はしないさ」

そんな軽口を叩きながら、源田と鬼道はぶらぶらと歩き回る。
土産物屋を覗き込めば、今どきは滅多にお目にかかれない民芸品が並べてあった。
その古めかしさに思わず苦笑して、他の名所を巡る。
そうして今いるのは、地元でそこそこ有名な池があるところだった。

「随分と澄んだ池だな」

水面を覗き込むようにして、源田が言う。
鬼道は水辺から少し離れたところからその様子を見ていた。

「ああ、ここにあるのは睡蓮なのか」
「?ハスとは違うのか」
「葉の形が違う。それに花の咲き方も違うそうだ」
「ふーん。詳しいんだな、鬼道は」
「いや、ここに書いてある」

そう言って鬼道が草はらの隅を指で指し示した。
しかし源田のいるところからは見ることが出来ない。
なので源田はわざわざ鬼道の側に行って、その看板を確かめるのだった。
それは泥にまみれて、風雨に打たれ、説明文が辛うじて読むことができる代物だった。
よくこんなものを見つけることが出来たと感心するほど汚く汚れていた。

「よくこんなものを見つけられたなあ」
「たまたま目についたのさ」

源田が思ったままを口に出せば、鬼道は軽く肩をすくめて応えた。
そのなんでもない様子に、なんとなくらしいな、という思いが源田の胸によぎる。
鬼道には色々なものが見えている。けれど源田には言われなければ気づきもしないことばかりだ。
そして言われて初めてその視野の広さに驚く。
結局、鬼道のいる高みに近づくことすら出来ない歯痒さが源田の胸に燻るのである。

「今日はなんだか、風が強いな」
「!ああ」

鬼道の視線が池の方へと向けられる。
それを辿っていけば、葉っぱが一枚水面に落ちた。
今まで鏡のように平らだったそれが波打つ。
それは鬼道の一挙一動にどうやっても反応してしまう、源田自身の内面を現しているようだった。



end
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