ドレッドヘアーの男の子

□源田と鬼道3
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休憩中



しんと静まりかえったミーティングルームに紙をめくる音が響く。
書かれた内容に集中しているのか、鬼道はぴくりとも動かなかった。
そんなとき、ふわりと紅茶の香りが鼻先を掠める。
その香りに意識が資料から離された鬼道は、どこからその原因がきたのかと香りの源に目を向けた。

「源田か」
「ああ。・・・なあ、鬼道。少し休憩にしないか」
「いや、まだやらなくてはならないことがあるんだが・・・」
「だけど作業効率が下がってるぞ?」
「!そんなことはない」
「いーや。その程度の資料、いつもならもうとっくに読み終わってるだろ。そうじゃないってことは、ちょっと疲れてるってことさ」

源田はそう言って鬼道の持っていた紙の束をさっと取り上げる。
その紙を追って目があうと、にっこり笑いながら有無を言わさずティーカップを押しつけられた。
その強引さにため息をひとつついてカップに口をつける。
温かい液体が喉を通り抜けていく感覚に、肩の強ばりが弛むのが自覚できた。

「アールグレイ、か」
「おっ、当たり。やっぱり解るか?」
「まあな」
「ついでにこれの味見も頼む」
「クッキー、か?茶葉が練り込んであるのか」
「ああ。母さんの新作。絶対に感想を聞いてきなさいってさ。それも鬼道を名指しでな」
「そうか・・・」

丸い形にくりぬかれたクッキーには茶葉の斑点が目立つ。
甘い香りのするそれを一口頬張れば口の中に紅茶の香りがふんわりと広がった。
さくさくとした歯触りで少しバターが効いているのがわかる。
料理研究家だという源田の母親の差し入れは、鬼道の家で作られた超一流のシェフと遜色のないほどの出来栄えだった。

「その様子だと、かなりいいみたいだな」
「分かるのか?」

鬼道が食べるのをにこにこしながら見つめていた源田にそう言われて、鬼道は源田を見上げる。
それに返事を返した源田の手がクッキーに伸び、一口で一枚を口に入れて、うまいと呟いた。

「家で食べてきたんじゃないのか?」
「いやさ、あんたは味わってんだかわかんないでパクパクいくから駄目、って言われて食べさせてもらえないんだよ。これもここで初めて食べるやつなんだよ」
「ふっ、そうだったのか」
「ああ。ほんとに参っちゃうよな。でもさ、鬼道とか、帝国レギュラーに持ってくときには大量に作って持ってけっていうんだよな」
「なんだかその話だけを聞いていると悪い気がするんだが・・・」
「気にするなって。鬼道は特にうちのかーさんのお気に入りなんだから」
「そうか」
「ああ」

だからほら一杯食べて感想をよろしく頼むな、とにこにこと差し出されたクッキーをありがたく受け取る。
さくりとかじったクッキーはなんだか先程よりも甘く感じるのだった。



end
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