RPG

□スマ●ラしようぜ
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『豆野、大也さん』

右隣を見ると、透明感のある白いワンピースを着た女性が微笑みながら僕の名前を読んだ。
甘い咽返るような花の臭いが身を纏う。

「なんで、僕の名前を知っているんですか?そもそも一体これはどういう...。」

ただでさえ理解しがたい状況に花の香りがきつくて気分が悪くなってくる。
目の前に広がる綺麗な湖はとても現実のものには見えなく、目の前の女性も容姿端麗だけどどこか作り物っぽい。
しかし、スニーカーの中の足の裏の感触、花の匂い、少し風が吹いているのも感じられて現実であることが分かる。

『私があなたの名前を知っているのはそう登録されているからです。豆野大也さん、助けてください。』

「登録...?あの、全然話の流れが掴めないんですが、僕は今、えっと、ここはどこですかね?」

『ここは安らぎの泉です。外の者からは「げーむのなか」と呼んでおられるそうです。』

「!?」

ここで僕は気づいてしまった。ここに僕がいる理由。完全にさっきのゲームが原因だろ。
安易にそう決めつけないほうが良いかもしれないが、そうとしか思えない。
そうだとしたら、僕以外の3人は残っていて僕だけこちらの方に来てしまったのか?
この都市伝説か何かに一番詳しくない僕だけが来てしまったのは失敗じゃないのか。
帰り方なんて知らないし、あれ、これ普通にやばくない?
この人は一応、話は通じそうだけど引っかかるのは先ほど、助けてくださいって言ったこと。
RPG系のゲームでは決まり文句のこの台詞、自動的に僕が勇者役ってことになるよね。

「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」
『ええ、なんなりと。』
「この通り僕はここの人間ではありません。帰り方を知りたいのですが、教えて下さいますか?」
『...ごめんなさい。それ以外のことでしたらどんなことでもお答えできます。』
「知っているけど、教えられないってことでしょうか。」
『いえ、完全には分かっていない状態です。』
「と、いいますと。」
『実は、豆野大也さん以外にも何人も外からこちらに来られた方がおられます。
 その方々が元いたところに戻る方法を調べ上げたそうですが...。
 残念ながら、その記録と一緒に全員が行方不明になっております。一人も見つからないのです。』
「何かに巻き込まれたんでしょうか。」
『その可能性もありますが、無事に帰れたという可能性もございます。』
「じゃあ、その記録もなければ聞ける人もいないということですよね・・・。」
『それなのですが、記録に関しましては全ては見つからなかったのですが記録の断片が発見されて
 一部のみ分かっております。』
「それを教えてもらうことはできますか。」
『私のお願いを聞いてくださいましたら、お教えできます。』

そりゃ、タダでは教えてくれないよね。

「帰るにはその条件を飲むしかないんだろうけど、無理そうなら考えますよ。」
『とりあえず聞くだけでもお願いします。』
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長い説明を聞き終えたところで、簡単にまとめるとこうだ。
@この世界(ゲーム)の秩序を守っている〔カテーナ〕と呼ばれる鎖のようなものが突然、全部切れたということ。
Aそのカテーナ(面倒なので以後鎖と呼ぶ)を直さないと混沌とした世界になってしまうということ。
Bそれを直せるのはこの世界にいる者には不可能で、外から来た者の知識によってのみ直せるということ。
C何人もの外から来た者が直そうとしていたが、次々と行方不明になってしまったということ。
Dそんなところにやってきたのが、僕ということ。
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