最遊記
□Naightmear
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夜の帳が降りる頃。
瞳を閉じれば静やかな漆黒のベールが舞降りる。
八戒は、細い細い道を、ゆっくりと歩いてゆく。
「どうして今日もカフスを外さなかったんですか?」
不意の問いかけ。
恐る恐る背後を振り返ると、自分と同じ顔をした、しかし、絶対的に違う笑み。
「こんなに青い顔をして…可哀想に」
そっと頬を撫でられて、八戒は引きつったような表情を浮かべる。
「また…あなたですか」
自然と声は上擦り。
しかし身体は金縛りのようにいう事を聞かず。
「愛しい愛しい僕。ねぇ、どうしてコレを外さないんです?」
鋭い爪を湛えた指で耳をそっと撫でられる。
その感触に、言の葉に、魅了されそうな自分を叱咤し、八戒は強い口調で反論した。
「僕はあなたにはならない!」
しかしそれはむしろ相手を喜ばせるだけで。
「僕になってしまえば、その病弱な体も、怪我をした時の治癒力も、…力も、全てが手に入るというのに」
ククっと笑い。
「悟浄を守れるのに」
一番言われたくなかった言葉に、八戒はヒュッと、息を呑む。
「僕だって君だ。悟浄を守りたい。これ以上心配させたり、泣かせたりしたくない。なのにどうして君は僕にならないんです?」
「それは…それは、僕があなたになったら、一番悲しむのが悟浄だからです」
またそんな強がりを…と、もう一人の八戒は笑みを漏らす。
「僕は君の一番近くで君を見ているんですよ?君が今日も耳に指を伸ばしかけていたこともね」
八戒の顔色がさらに青さを増してゆく。
そんな八戒を、もう一人の八戒は「かわいそうな僕」と呟いて、ゆっくりと抱きしめた。
「離して…下さい」
弱々しく抵抗する八戒に。
「離さない。君は僕です」
囁いて。
ゆっくりと唇を重ねる。
「さぁ、僕を、受け入れて」
妖艶な笑みに、八戒の意識が遠のき。
どこか冷たい腕の中で八戒は意識を手放した。
「今はお休み、八戒。そして、必ず、いつの日か……」
八戒を抱き上げて、もう一人の八戒は、ベールの奥へと消えていく。
後に残されたのはただ静寂に包まれた闇だけだった。