コウノドリ 長編 [大魔王様と研修医]

□大魔王様の優しさ
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〜四宮視点〜


午後の外来がつつがなく終わり、昼食を食べるために俺はロッカールームへ行く。

ドアを開けると、先客でサクラと小松さんが昼食をとっていた。


いつも通り俺は二人にはお構いなしに、ジャムパンをほおばる。


小「ねぇねぇ、しのりん♪下屋先生のご家族に大人気だったらしいじゃん!」

四「…その呼び方、やめてください。
それと、いつの話ですかそれは。」


へっぽこ研修医の実家に行ったのは、もう数週間前のことだ。

時間の感覚がなくなるのは、老化現象なんじゃないだろうか。


サ「下屋のご家族はどんな人だった?」


サクラ、お前まで。小松さんの話に乗るつもりか。

俺はため息をついて、簡潔に話し始める。


四「…一代で店を大きくしたパティシエだから、やっぱり職人気質だった。
でも、どこから来るのか分からない前向きさや、落ち込むと犬のようにしょげるところは、あいつに似ているな。」

サ「犬って…。で、お母さんは?」


四「良く言えば、大らかな人だった。
あいつのあの能天気なところは、母親の血を濃く受け継いだんだな。

ついでに言うなら、妹は今どきの女子高生なんだろうな。試験前日にあんなにのんきにしているなんて…やっぱり理解不能だ。

姉の方は…まぁあんまり印象に残ってないから、あの家族で一番まともな人間なんだろう。」



冷静かつ冷徹に分析結果を述べる。


サ「…なんだか、にぎやかそうな家族だね。」


四「確かににぎやかだった。

下屋は、俺の中で一番理解不能なタイプの人種だと思っていたが、あの家族を見てるとあいつがあんなに能天気な理由が分かった気がする。」



加江「お疲れ様でーす!」


噂の張本人が大きな封筒を持ってやって来た。



小「噂をしたら何とやらだね。
あれ、下屋先生、何持ってるの?」

加江「この前受けた健康診断の結果です!」

そう言うとソファーに座った下屋は、封筒を開けて健康診断の結果を見始めた。


小「下屋先生はまだ若いんだから、大丈夫でしょ!」

加江「…。」

小松さんへの返事を忘れて、青ざめた顔で下屋は紙を見入っている。

サ「…下屋?」

加江「…あ!はい!!全然!大丈夫でした!!!」


どう見ても大丈夫ではなさそうだ。
もう少しまともに嘘をつけないのか、こいつは。

その後、下屋はコンビニで買ってきたサンドイッチを食べようとするが、数口食べただけで食事を終え、封筒を持ってロッカールームを出た。


下屋がいなくなった部屋で、二人がヒソヒソ話す。


小「…どう見ても、大丈夫じゃないよねありゃ。」

サ「ご飯もあまり食べてなかったし、胃部X線の結果が悪かったのかな…。」



俺には関係ない。

と言いたいところだが、あいつの指導医として、あいつの健康状態を把握しておく必要がある。


俺は残りのジャムパンを牛乳で流し込むと、急ぎ足でロッカールームを出た。
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