でぃばげ

□溶けてなくなる
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なんで、こうなったのかしら。

レイニィは、街を歩きながらそう思った。ざあっ、と降り続ける雨。傘も差さずに1人歩く彼女を、街行く人は訝しげに見ていく。

ウンディーネも、マーメイドも、ベロニカも、誰も、誰も悪くない。勿論、アリトンも。

一体誰が犯人なの。誰が悪いの。

この抱えきれないやるせなさを、一体どこへやったらいいのか分からなかった。

あの日、わたしはそのあと水を留めし者に会いに行き、真実を知った。彼の瞳は澄んでいて、ウンディーネの死を感じさせなかった。

アリトンを、責めないでくれ。

何も言えなかった。何故、何故。何故あの子が。みんなが。
悲しいのか怒っているのか分からなかった。渦巻いた複雑な気持ちが、この世界をおかしくしているような気がした。

ふと、ショーウィンドウに映る菓子に目が向いた。

「水菓子....」

ガラスに打ち付ける雨のせいで、ショーウィンドウの中の水菓子は淀んで見えたが、レイニィはそれを食い入るように見つめた。水色の寒天の中、貝殻の形の桃が小さく入っており、上には花が飾られていた。まるで、それは旧知の仲間を表しているようで、レイニィは複雑な気持ちになる。この世界にはもう仲間はいない。この水菓子を買えば、この複雑な感情もどうにかなるだろうか。


思わずショーウィンドウに手を伸ばそうになった瞬間、その水菓子の前に1人の女性が立った。レイニィは店の外側から水菓子を見ていた。中にいた女性に気づかなかったのだ。

レイニィはその女性に覚えがあった。それは確かに、この世界では沢山の支持を得ている彼女だった。

「ヴィヴィアン」

同じ水属性で妖精の彼女とは知り合いの中であった。その可愛らしい容姿に似合わないドライバを抱えて、いつも元気に飛び回っていた。しかし、店の中の彼女はどこか哀しそうだった。

やがて店からヴィヴィアンが出てくると、彼女はこの雨の中傘も差さずにいるレイニィを見つけ、驚いたような様子を見せた。

「レイニィちゃん?大丈夫?この雨の中!」
「大丈夫」
「とりあえず傘に入って。うち来てよ。そのままじゃ風邪ひくから」
「ありがとう」



水菓子はテーブルの上に2つ分、お茶と共に出した。レイニィが長い髪の毛から滴る水滴を拭き取っているうちに、暖房をつけておく。

「来客なんて久しぶりだから、掃除してないんだけど....、ごめんね。」
「ううん、大丈夫。ありがとう」



水菓子の味は美味しかった。ヴィヴィアンとは特に話をせずに終わったけれど、お互い、今何を思ってこの水菓子を食べているのか分かったような気がした。

「今の妖精王も、魔女王も、人間なんだって」
「ねぇ、人間って、一体何なのだろうね」
「分からない。私の仲間を殺したのも、人間だもの」
「ねぇ、なぜ人間は私たちから何もかもを奪うの。何故?ねぇ、なんで?ヴィヴィアン、どうして?」
「そんなの嘘だ、って、目を塞いでも、彼女達が死んだ事実は変わらないんだよ。」
「その瞳が汚れても、今のこの事実を受け止めなくちゃ。」


忘れる事ってこと?違うよ。違うけど。

レイニィの心には雨がずっと降る。ヴィヴィアンの心には晴れ間が宿る。立ち直れない、哀れな雨術師は、いつまで闇を抱えて生きる?

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