でぃばげ

□未来のお勉強
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目の前に広がるのは数式の列。意味不明、分からないの言葉が私の脳内を支配した。

「オズ、分からないわ」

目の前でペンを動かしていた彼を見やる。赤い瞳が怪訝そうにこちらを見て、ノートをちらりと見る。

「全然できてないじゃないですか、さっき教えましたのに...。」
「教えられてる時はなぜか分かるような気分になるのよ」
「なんですかそれは」

オズはため息をついて、私の方に身を乗り出してペンで問題文を辿る。やがて暫く考え込むと、ペンで自分のプリントの端に数式を書き始めた。

「わかったの」
「まあ、多分ですが」
「すごいわね」
「当たり前ですよ」

そのあと問題が解けたというオズにまた教えてもらったが、「分かった」気がするだけで、本当は根っからなにも理解できなかった。

「このままじゃあ、テストやばいわね」
「少しは焦った方が良いんじゃないですか?」

私は数学だけダメだ。あとは大体わかる。オズは全教科バッチリの秀才のガリ勉。そこまで脳内で言ったところでオズの目が鋭くなった気がする。また顔に出していたかしら。そう思って数式とにらめっこを開始する。何とか、何とか一問だけわかった。

「オズ、一問解けたわ」
「そうですか」
「冷たいわね、炎属性のクセに」
「関係ないですよ」

つまんなくて、彼の解く化学式のプリントに落書きをしてみる。描くのは小さな女の子。三つ編みと、フリルをあしらった可愛いドレス。その下に「ドロシーちゃん」と描いて、オズをちらりと見る。その目は笑えるほどにドロシーに夢中で、「すごい」と感嘆の声を漏らした。

「って、また!こんなことしてちゃ一緒の大学なんかいけませんよ!折角数学以外は出来るのに...」

我に返ったオズに叱られた。私は先ほどのオズの顔が可愛くて可愛くて忘れられなくて、思わずクスクス笑い出した。「何ですか!」と怒り心頭のオズをまた可愛いと思ったのは秘密だ。

「私だって、センターで今解いているこの問題が丸々出るんだったらやる気を出すわよ。でもね、出るわけじゃないでしょ。」
「でも、やらないとどうしようもないですよ、ほら。」
「むぅ、そうだけど」

「出なくても、参考にしていくんです。そうやって万全の状態で臨むんですよ。」
オズはいつの間にか手を止めて私の顔を見つめて、微笑みながら言った。
「私はいつもこう考えています。この問題を、解くことで貴女と同じ未来を歩めると」
「大学も、その先も、ずっと一緒です。だから、これは未来のお勉強です。2人同じ未来を歩むためのお勉強です。」
「ね、だから、頑張りましょう」

私は赤くなる頬を隠して言った。「なにプロポーズしてるのよ」
「失礼しました」
「良いのよ、別に」

きっと私の頬が紅いことを彼は見抜いている。彼の目が細められて、唇が私に迫る。

「何でわかったの」と言ったら、彼は私を誘惑しながら言うんだろう、「魔法です」と。

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