でぃばげ

□憂鬱な雨の日
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妖精界にて、雨術師レイニィは一人雨の降る中佇んでいた。

精霊会議のおわり、歩を進めたのはかつての旧知の友との思い出の場所。

何もかもが終わり。死んでしまった心。もう戻らない、過去の記憶。

涙が雨と同化して頬を伝った。救えなかったのは、自分。責めるべきは、自分なのだと、自嘲気味に微笑む。


その後、道を歩いていると、金髪の青年とすれ違った。蒼い瞳、体に似つかないほどに大きなドライバ。それを見てレイニィは勘づく。精霊会議で報告された指名手配犯、「アオト」にそっくりだということに。

途端、彼が水たまりに体をあずけるようにして倒れた。水しぶきがパシャン、と音を立て、彼の綺麗な顔を濡らす。
大丈夫、と、レイニィは近寄る。だが、すぐに気づく。これは、「アオト」ではないと。

開く瞳、濁った瞳は薄く憎悪を映した。

(こわい)

レイニィは恐怖のあまり、立ち去ろうとするが、足が震えて力が入らない。この人は違う。この人は駄目だ。近づいてはいけないーーー。

ガッ、と腕をつかまれて拘束される。雨に濡れた彼の顔は、精霊会議で見たアオトそのもので、瞳は曇り、顔は愉しそうに歪んでいる。

「君も悲しんでいるのかい、僕がしたことによって」

レイニィは目を開く。何を言っているのか。放心しているうちに、彼に距離を詰められ顔を近づけられる。

「殺したのは僕だよ、雨術師レイニィさん」

「ど、どうして私の名を」

「有名だからね。兄さんを苦しめるにはこれしかないんだ、大切な仲間を切り捨てること」

「でもそれによって、何も僕と関係の無い君が悲しんでしまった」

ごめんね、謝るぐらいしか出来ない。

彼はそう言うと、倒れた体を起こしてレイニィに笑う。

それは、ひどくひどく、哀しい笑み。嘲た瞳はどこへやら。今は戸惑うレイニィを映しているだけ。

「待って、たぶん熱が」

「大丈夫、もう常界に戻るからさ」

僕の名前はアリトン。アオトの弟。

出会えてよかった、レイニィさん。

彼は頬にキスをすると、すっと消えた。

レイニィはただただ、そのまま座り込んだまま涙を流した。

誰も間違っていない。誰も悪くない。悪いのは、この運命なのだと。彼女たちは、いずれこうなる運命だったのだと知ると、不意に涙が溢れだして、止まらなかった。

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