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□70:私の居場所は此処
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花宮君に話した言葉はぐちゃぐちゃで途中何を言ったのかあまり覚えてなくて、でも黙って私の言葉を聞いてくれていた彼は否定も肯定もしなくて一言だけ出した条件が明日まで待つだった。もう少し期限が欲しかったがダラダラ先延ばしにしても仕方ないし条件を受け入れた。
その後は終始上の空が続いて授業の内容もあまり頭に入って来ず休み時間とかも、すずちゃんや山崎君に心配をかけてしまった。

戻りたいような戻りたくないような、気持ちがフラフラしてて早く帰って1人で静かに考えたい。だから下校時間と同時に教室を出た。
家に着いて自室のベッドに制服のまま潜り込む。そして目を閉じた。

でももう、難しく考えなくても自分がどうしたいか帰ってる間結論が出始めていた。嫌ならとっくに自分で退部届を渡している。躊躇したのは拒否されたら、と悪い方向ばかり考える私の心の弱さからだ。
『あの頃』とはバスケへの考え方が変わってるんじゃないか?180度変わってなくても少しでも変化があるのならその姿を近くで見てみたい。
もう悩むのはやめた。今、一番にしたい事をすればいい。いつも皆から歩み寄ってくれたんだから次は私の番だ。
勢いよく布団を払い立ち上がる。
まず私がしなきゃいけないのは…………、

とりあえず服を着替えよう。
床に置いた鞄の薔薇チャームが夕陽に反射してキラキラ光っていた。



***

どのタイミングで返事を言うか考えあぐねて出した結論は部活前、全部員の前で返事をするだった。決心した途端気持ちが楽になり調子が良い。授業も心なしか捗った。昼休みに階段付近で花宮君と遭遇して笑って見せたら眉根を寄せて怪訝な顔をされてしまった。まあ、いつもの事だ。

「なまえちゃん機嫌良さげじゃん。どうしたの?」
「…そう見えてる?」
「うん。何かいつもと違う」
「実はね、またマネージャー復帰しようかなぁって、」
「へー!んまぁ、ザキとも仲直り?したし良いんじゃない?それザキは知ってるの?」
「まだ。あ、この事内緒ね」
「オッケーオッケー」

すずちゃんは私と山崎君が別れた事になって気まずくなったからマネージャー辞めたと多分思ってるんだろう。真実を話せないのは申し訳ないが、喜んでくれてる彼女には感謝でいっぱいだ。


***

ひと足早くバスケ部の部室に向かう為、部室の鍵を職員室に居た顧問から受け取りまだ誰も来てない事を祈りながら部室の扉を開ける。
…良かった、誰も居ない。
早速私は散らかっている箇所の片付けとタオルの畳み直しを済ませてドリンク作りを始める。途中、当番であろう1年生達が入って来て驚かせたけど一緒に手伝ってもらった。
「みょうじ先輩、準備終わりました!」
「ありがとう。じゃあ、私は着替えて来るね」
「はいっ」

体育館の女子更衣室に一人で入るのは久しぶり。
いつもの場所に荷物をしまいジャージに着替える。体育館の中はひんやりしていて手先が冷たくなりグーパーしながらボール等の準備に取り掛かる。
バタバタと走る音が聞こえて1年生かな?と出入口に目線を向けた。

「みょうじ!!」
「山崎君」

制服姿の山崎君が私を見て笑顔になった。
「おまえ…びびるんだけど、!」
「え、あ、ごめん」
「いや、1年がみょうじが来てるって言うから」
「うん」
「それってつまり」
「…着替えておいでよ」
「へ?」
「皆が集まったら話したい事があるから、ね?」
「ーっ!分かった。ダッシュで着替えて来るわ」

そう言って山崎君は走って行った。
そのすぐ後に花宮君がいつもの練習着で現れた。
「何してんだ?」
「……見て分かる通りです」
「それが返事?」
「ち、違う、ちゃんと皆の前で言うから!」

「ふはっ、知ってる」

その言葉に何故か安堵して口元が緩んでしまった。


それから着替えた山崎君がまた戻って来て、1年生、古橋君、原君、瀬戸君が3人一緒に来て一瞬固まってた。
「みょうじさん…?」
「えー?なまえチャン来てくれたんだー」
「…へー」
「おい、全員集まれ。みょうじから話があるってよ」
体育館に部員全員が揃ったところで花宮君が集合をかける。皆の視線は一斉に私に注がれている。…あ、緊張してきた。

「えっと、お久しぶりです。今日はみんなに許可をもらう為に来ました。…えー、ウィンターカップでマネージャーを辞めるって言ったんですけど……また…み、みんなが、頑張ってる姿を近くで見たくて、応援したくて…支えたく、て……」
言いながら目頭が熱くなり視界がボヤけてきた。
「みょうじ…」
「だから…!またマネージャーやらせて下さい!お願いします!」
勢い良く頭を下げた拍子に涙までが床に滴り落ちる。

「そんなん当たり前だろっ。なぁ花宮!」
「………ま、いーんじゃねえの」
「本当に?」
「そーそー。花宮が許可したら文句言えないしね。俺は文句ないよんなまえチャン、大歓迎だから」
「話は終わりだ。練習するぞ」

あっけなく話を切り上げられたが次々におかえりと声を掛けられ嬉しい。
「みょうじさん」
古橋君がポケットからハンカチを出して涙を拭ってくれた。
「ありがとう、大丈夫だよ」
「…泣きたい時は俺の前でなら泣いてもいいぞ?」
「いや、あの、えーと…」
何でそんな言葉をサラっと言えるの?!
思わず赤面していたら、山崎君が古橋君の首の後ろの服を掴んで睨む。
「練習すっぞ」
「服が伸びるから離せ」
「…ったく。みょうじ!また今日からよろしくなっ」
「うん!よろしくね」

もう一度戻りたいと思ったのは皆が大好きだからだよ。
次こそは皆のプレイスタイルを好きにならせて欲しいな。







〜第1部:完〜

第2部につづく。
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