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□69:バカな女〜花宮side〜
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数学教師に課題を提出した帰りに窓の外に視線を移す。みょうじが段ボールをバスケ部の部室がある方向へと歩いていく。顧問に頼まれたのだろうと察しはつく。
アイツの退部届は受理されてないのでまだマネージャーだと顧問は思ってる。そこでみょうじが退部してないと気づいたのかは分からない。


***

朝練を終えて、教室に入るとみょうじと目が合う。
「花宮君……あのさ、」
遠慮気味に話しかけられ無言でみょうじを見る。あ、こいつ気づいたな。
「…場所変えよっか」
表向きの笑顔を作るとみょうじは小さく頷く。俺はバッグを机に置いて後ろを付いて来るみょうじともう一度部室に向かった。




「…で、俺に聞きたい事あるんだろ?」

「私の退部届、受け取ったよね…?」
「受け取ったけど?」
「保留って何?」
「あぁ、顧問に渡すの忘れてた」
「忘れてたって……」
「まだ俺が持ってるけど?」
「………そう……」

抗議でもするのかと思ったがみょうじの表情は何か考え込んでる様だ。辞めたいなら顧問に退部届を渡せと言うか自分で渡すから返せと言うかのどちらか。言わないのはまたマネージャーに戻りたいからじゃねえのかよ。

「自分で渡したいなら返そうか?」
「え、と…」
「…ちっ。だったら俺から顧問に渡しとけばいいんだろ。もう行くぞ」
「っ!待って、ちょっと待ってっ」
「ああ?」
部室から出ようとする俺の腕を掴むみょうじにイライラして牽制したら困った様な泣きそうな目で俺を見る。
「ごめん。まって……」

それがお前の答えだ。早く決めろよバカ女。

「何で?」
「…まだ…マネージャーは…保留にしといて、欲しい」
「何で?」
「ラフプレー嫌だけど、部員の皆は好き、だし…頑張って練習してる皆をフォローしたいし、嫌だけど…フォローしたいし、1年生可愛いし癒されるし…嫌なんだけどっ、部室掃除行き届いてないしタオル畳み方適当だし、花宮君の猫被り見飽きたし、フォローしたいし、嫌だし……、」

……喧嘩売ってんのかこいつ。

「…余計な部分省くとお前はフォローがしたいんだな?」
「………どうなんでしょう?」
「あ?」
曖昧な返答に眉間にシワがよる。
今、木吉以上にみょうじにイラついてる。女でイライラすんのはミーハーでビッチなヤツらだけで十分なんだよ。
「今日まで待ってやるよ」
「きょう、だけ?」
「いつまでも保留にしてられるかよバァカ!明日返事聞かせろ」
「…え、はい……」
「ちっ、戻るぞ」


戻って来いなんて柄にもない事は言うつもりない。
頭悪いくせに雑用には手を抜かねえし弱いくせに俺に反抗してきては負かされてるし小さい嘘ついてもすぐに分かる反応するくせに別途、何か大きな隠し事してる感じがするが絶対見破らせないし変に芯が強い所もあるし。
これでも俺だってお前を認めてんだよ。マネージャー務めるのはみょうじだって決めたのは俺だ。
俺の目に狂いはねぇんだよ。
バカは馬鹿なりに単純に行動しろ。

明日、アイツの答えは9割決まってるだろうが1割の答えを出したら前に無意識で口走っていた将来禿げろと言った事一生許さねぇ。


どっちみち許すつもりないな。




***

約束の期限が迫っている中、みょうじの態度はいつも通りに見えた。ヤマとも、昼休みに本を渡しに来た古橋とも普段通りに話している。
俺の予想では返答は放課後部活前だろうな。みょうじの性格的に部員全員の前で言うと思ってる。


昼休みに食堂でスタメンで昼食を食べていると後方からみょうじ先輩と微かに聞こえた。どうやらヤマと古橋にも聞こえたらしく目線を動かしている。
「あれは1年の…」
ヤマが呟く。ゆっくりと後方に目を向けるとバスケ部の1年と知らねえ野郎達が喋っている。1年は他の野郎達が壁になって俺達に気づいてはいなかった。

「久々に会ったら、背伸びたねって言ってくれた」
「おまえ浮かれ過ぎ(笑)」
「そりゃあ嬉しいよ!先輩と話す事あんまないし」
「学年違うと難易度高くなるよなー。早く連絡先交換しろよ」
「マネなら聞きやすいだろ?」
「そうだけどさー…」

……この1年もかよ。
「うわーライバル増えてんね」
「あの1年確か、沢ってヤツ」
「みょうじさんに懐いてた男だ」
「あーそういや秀徳のバスケ部とも交流あり」
「なにそれ」
「クラスの女子がマジバで目撃したらしいよ」
「ライバル多くね?」
「いや、ライバルって限らねぇだろ」
「お前等からしたら全員ライバルだろ〜。危機感もてザキ」
「お、おう」
「他に居る?なまえチャンの周りに」
「…桐皇の今吉さん?」
「ふっざけんな」
あの人に関わるとロクなことがねぇ。
はぁ、こんな緩んだ環境最悪。
練習 倍にするか。
昼食を食べ終え俺はさっさと食堂から出て教室に戻る。
途中みょうじが階段を上がる所でお互いに目を合わす。ぎこちない愛想笑いをして階上に消えて行った。



…アイツの何処に女としての魅力があるんだ?俺にはただのバカ女にしか見えないのに。

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