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□58:リスタート 〜古橋side〜
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みょうじさんに失恋をした。

好きな人から拒否されるのはかなりキツいモノだ。解っているんだ。彼女が恋愛感情なんて俺に、俺達に抱いていない事なんて。
ザキを友達として好きだと言葉にしたその声で俺の事も好きだと言って欲しいと願った。
私は違う……?それが、みょうじさんの本心なのだろうか。
ザキから明かされた気持ちもとっくに知っていた。周りの皆もザキがみょうじさんに好意を寄せてるのは少なからず気付いている。
正直、羨ましい。俺には無理だ。
だから変に遠慮もして欲しくない。

自分の想いを告げた後もみょうじさんは気まずそうに目が合ってもすぐに逸らしてしまう。
マネージャーを辞める時もやっぱりな、と納得して何も言わなかった。これで彼女の事を諦めようと思った。
でもふとした時に考えるのは彼女の事で、学校内で見かける度に目で追いかけてしまう。


「お前、みょうじの事好きだろ」

部活の帰りに花宮に何の脈絡も無く言われ思わず歩いていた足が止まる。
「俺が気付かねえと思ったか?」
「……流石だな花宮は」
「ちっ。ヤマといいお前といい面倒臭ぇ」
「へー、モテモテだね彼女」
瀬戸のからかう様な言い草に特に反応せずに歩を進める。
「ボケっとしてると誰かに取られちゃうんじゃない?例えば…灰崎祥吾とか」
「ー!アイツは駄目だっ」
予想外の名前を出す瀬戸に声を荒らげる。あの日の事が思い出され奥歯を噛みしめる。
「悪い冗談を言うな」
「まあ、会う事はないと思うけどライバルはザキ以外にも居るかもしれないよ?」
「選ぶのはみょうじさんだ。彼女が誰かを好きになったら仕方ない」
「くだらねぇな」
「花宮も瀬戸も人を好きになれば色んな考えを持つだろうな」
俺の言葉にあまり理解した顔をしない2人と並んで歩く。



***

もうすぐ冬休みが近付くある日の部活後にザキがみょうじさんと仲直りしたと報告して来た。
目が合ったザキに良かったな、と一言返す。心中はざわついていたが表面には分からないだろう。バスケ部とは関わらないと言った彼女とまた関わりを持ったザキに当然嫉妬した。
俺はみょうじさんを遠くから見ている事しか出来ない。
これからザキとみょうじさんが仲良くしている光景を何度も見るだろう。多分耐えられないかもしれない。


「みょうじにウィンターカップ観に行く事言ったら、アイツ桐皇の今吉さんに誘われたから行くかもしれないってよ」
部室を出ようとする花宮に発したザキの言葉。
何故、他校のバスケ部と親しいのか…。ライバルと言うヤツなのか?気になるが聞くに聞けず、残った俺とザキと瀬戸の3人で戸締まりをして学校を出た。ザキとは正門で別れ瀬戸と帰り道を歩く。

「いーの?」
「何がだ?」
「ザキとみょうじさんどんどん距離詰めてるよ」
「…聞いていたのか」
「んーちらほらね。あの様子じゃ原もちゃっかりザキに便乗しそうだね」
「そうかもな」
「…諦めたらそこで試合終了だよ」
「………似合わない事を言うな」
柄にもない台詞を吐く瀬戸は一つ欠伸をした。
諦めなら失恋した時点で出来ると思った。だが、未だ冷めぬ気持ちはもう誤魔化しようがないみたいだ。

「もう一度頑張ってみようか」
ボソッと呟いた俺の言葉に瀬戸が嫌味な笑みを浮かべる。

「似合わない台詞」



みょうじさんに逢いたい。
みょうじさんの声が聞きたい。
みょうじさんに見て欲しい。
みょうじさんと話したい。
みょうじさんに触れたい。

欲望が一気に溢れ出した。
頑張ろうと決めた途端俺はこんなに欲深い男だったのかと戸惑う。
今は俺の事好きじゃなくてもいつかは好きになって貰えるのだろうか?だが、その前に彼女ともう一度関わりを持たなければ…。

「あ、みょうじさん」
「え?」
瀬戸の口から彼女の名前が出て前方に視線を向けると私服姿のみょうじさんが本屋に入って行くのが見えた。
「じゃお疲れ。先に帰るね」
「あ、おい」
気を利かせたのか瀬戸は行ってしまった。……取り敢えず本屋に入るか。
中に入りみょうじさんの姿を探してみる。新刊コーナーに立っているのを見つけ咄嗟に隠れる。1冊だけ手に取るとレジの方へと向かう。
どんな本だろうと先程までみょうじさんが居た新刊コーナーに近付く。

あ…前に俺が貸した小説の新シリーズ。
このシリーズを気に入ってくれていたんだな。俺の好きな本をみょうじさんも好きになってくれた。それだけで嬉しい。
折角だから俺も買おうと小説に手を伸ばしたが途中でやめた。
みょうじさんが俺が貸した小説の続刊を読むかと聞いた時に既に買ったからと断った。
今度は、彼女から借りたい…。


いつ来るかも分からない未来に淡い期待をして。

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